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just the way you are29

 毎日、病院へ通った。タクシー運転手の言葉通り、救急車を呼んで正解だった。今は意識が戻らないため、家族以外とは面会不可、と言われたが、救急車に乗っていた直太を覚えている看護師は、こっそり夏輝の様子を見ることを許してくれた。前回はカードがなければ開けられない個室だったが、今回は普通の個室だ。友則はすでに警察から事情を聞かれているのかもしれない。
 面倒なのは両親だ。直太の両親は夏輝の両親より早く病院へ到着し、警察が来るまでは待って欲しいと言った看護師の言葉を無視して家へ連れ帰った。両親からはっきりと夏輝との付き合いは認めないと言われた。同性に興味を持つことは許容するが、彼とは距離を置くように、と念押しされた。
 直太はリュックサックに隠している靴を取り出す。白いスニーカーを見ていると、胸が苦しくなった。あまり汚れていないそれが、夏輝そのもののように見えてくる。あの時、彼は靴を汚すな、とつぶやいていた。来るな、と言った彼の言葉に従わず、彼を見つけたからこそ救えたのに、彼の立場で考えると、あの姿を見て欲しいとは思わなかっただろうと容易に想像できた。
 靴を戻して、クローゼットへ隠した後、直太は階段を下りた。距離を置け、と言われたが、直太は毎日、病院へ向かう。母親は何も言わず、非難する目つきでこちらを見るだけだ。玄関の扉を開けると、真夏の陽射しがまぶしかった。直太は手をかざして、外へ出る。
「山崎直太君かな?」
 三十代くらいの男性ともう少し年上の男性が立っている。警察だ、と直太が思った瞬間、彼らも警察だと名乗った。母親を呼び、家の中へ入ってもらう。
 警察が来る理由は事情聴取だと考えられたが、直太は夏輝が六日目にして目を覚ましたのではないかと気がかりで、落ち着かなかった。リビングのソファに座った警察は、麦茶を出した母親へ礼を言ってから話を切り出す。
「里村君ときみは先輩と後輩の仲なんだって?」
 若いほうが尋ねてきて、直太は頷いた。
「仲がいいのかな? ほら、同じ部活でもないし、委員会とかそういう活動でも一緒じゃなかったって聞いたから」
 キッチンにいる母親が焦っている。直太はまた頷いた。彼らが何を聞き出そうとしているのか分からない。
「あの作業現場の近く、あそこには最初からいたのか?」
 今度は年上のほうが尋ねてくる。直太はスマートフォンを取り出して、夏輝のスマートフォンからの着信履歴と場所を知らせるSMSを見せた。
「俺が行った時には、誰もいませんでした」
 月に照らされた夏輝の姿を思い出し、直太は両手の拳を握る。
「ナイフに触った?」
 ナイフの柄の感触と抜こうとしてあふれた血を思い出し、直太はかすかに震えた。
「触りました。抜こうとして、そしたら、先輩、痛がったし、血が出て……」
 二人は視線を合わせた後、「どうも」と言って立ち上がる。
「待ってください。先輩は? 意識、戻ったんですか?」
 戻った、と言われて、直太はスマートフォンを持って立ち上がる。母親がとめるのも聞かずに、玄関へ向かった。何か聞き忘れている。だが、夏輝が意識を取り戻したという情報より、重要なことはない。先ほどと同じように手をかざして、外へ出た。
 直太は足をとめて、玄関を振り返る。
「……あいつ、捕まりますよね」
 家から出てきた二人は、誰のことかと尋ねてくる。
「西城友則」
 彼の名前を口にするだけで、嫌悪で顔をしかめてしまう。だが、彼の名前を聞いた二人は否定した。
「どうして市議のご子息の名前が出るのか分からないが、里村君の件は事件性がない。ナイフには彼ときみの指紋しかなかった」
 直太は耳を疑った。
「でも……でも、先輩、暴行されてて」
 言葉が見つからない。
「彼自身が自殺しようとした、と言ったんだよ。その前の乱交についても、彼が自分で人を集めたと話している。実際に彼のスマートフォンから、その手の掲示板へ投稿して、彼自身が場所や時間、方法というとあれだが、どういう嗜好でして欲しいか、全部指定していた」
 嘘だ、と叫んだ。叫んだ後、走って、走りながら、嘘だと繰り返した。友則に対する怒りと悔しさから涙を流し、直太は駅まで走り、電車に飛び乗った。


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