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 駅のホームで二時間ほど時間をつぶした夏輝は、ようやく自宅方面へ向かう電車に乗り込んだ。家の近くまでたどり着いた時、時刻は二十時頃だと思ったが、もう少し遅い時間だったらしい。視線を落とし、直太に買ってもらった靴を見た。家に帰れば、父親に殴られるかもしれない。明日は、友則から呼び出されるかもしれない。
 重い足を引きずるようにして踏み出し、右折しようと曲がった。車のライトがまぶしい。思わず目を閉じて、手をかざした。見覚えのある車だ。夏輝は引き返そうと背中を向ける。
「夏輝」
 友則の声を聞くと、体が動かなくなる。
「嘘の償いもしないうちに、病院から逃げた。今、車に乗らないなら、山崎直太を退学にする」
 夏輝は誘蛾灯へ近づく蛾のように、ふらふらと歩き、車へ乗り込んだ。
「……友則が好きだからだ。それ以外の理由はないから」
 うまく笑えているか分からない。友則は優しい笑みを浮かべて、それから、右拳で鳩尾を殴った。夏輝は咳きこみながら、腹を押さえた。
「あいつの服着て、よくそんなこと言えるね。病院、抜け出して、あいつと何してた?」
「東京まで行って、朝までずっとファミレスでしゃべってた。俺を好きだって言うから、こたえられないって説得し、っぐ」
 右手で服の襟をつかんだ友則は、前腕部分をあごの下へ入れて、そのまま力を込めた。首を絞められて、夏輝は両手で彼の手をつかむ。
「おっ、れが」
 夏輝が何とか言葉を発すると、友則は少し力を緩めた。
「俺が、何、言っても、信じないくせに」
 左頬を殴られたと分かったのは、後頭部をガラスに打ってからだ。ガラスは割れなかったが、衝撃が強すぎて、目の奥にまで痛みを感じた。制御できない涙があふれた。夏輝は怯まずに言葉を続けた。
「たとえ、俺を殺しても、友則は変わらない」
「……どういう意味?」
 一年生の時、友則が話していたことを思い出した。何でも完璧にできるから、それが当然と思われて、本当は必死に頑張ったことも褒めてもらえない。だから、少しずつ試していると言っていた。どの程度なら、はみ出しても平気なのか、どの程度までなら、関心をひくことができるのか。
 その時、夏輝は心から励ました。今、考えれば、軽率な言葉だった。
 愛してもらえるよ、きっと。
 今、夏輝は泣きながら、反対の言葉を告げた。
「こんなことしてても、愛してもらえない」
 ちょうど車が停止した。リアガラスから入ってくる光が、友則の顔を照らす。彼は取り残された子供のような表情だった。傷ついていた。手を伸ばしかけてやめたのは、彼が手首をつかんだからだ。
「主役が遅れたね。夏輝の誕生日パーティーなんだから、楽しまないと」
 友則はそう言って、手首から手を離し、先に車を降りた。ドアを開けられ、夏輝はそのまま髪をつかまれて、引きずり出される。光の正体は車とバイクのヘッドライトだった。
「その服、ぜんぶ脱いで。靴も」
 夏輝は地面に手をついていた。少し濡れた土と草の感触がある。どこにいるのか分からなかった。殺されることはないだろう。だが、死にたいと思うかもしれない。しりもちをついた状態で、夏輝は靴を見た。まだ汚れていないきれいな靴だ。手を伸ばして、草の上に靴を並べて置いた。立ち上がって、ベルトを緩め、ジーンズも下着ごと脱いだ。シャツまで脱ぐと、うしろから蹴られて、その場に両手をついた。
 髪をつかまれて顔を上げると、目の前に男のペニスがあった。友則の姿を目で探す前に、彼の声が聞こえた。
「十八人以上、集まったけど、多いほうが嬉しいだろ? ちゃんと飲めよ」
 男の手が後頭部を押さえた。まるで喉の奥を潰す気でいるのではないかと思うほど、強い力だ。夏輝が嘔吐しそうになっても、彼は構わずに続けた。
 夏輝は視界の端にある靴を見た。直太が買ってくれたスニーカーだ。あそこなら汚れない。これが終わったら、あれを履いて歩こう。彼のように速く走ることはできないが、遠くまで歩いていけると信じた。


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