just the way you are23 /i | ナノ


just the way you are23/i

 夢中だった。行為がもたらす快楽にではなく、夏輝と一つになり、満たされているこの瞬間を終わらせたくはなかった。だが、走った後以上に息を乱しながら、直太がベッドへ倒れ込んだ時、彼は気を失っていた。
「せっ、ん、せんぱい?」
 声をかけても、夏輝が目を開ける気配はない。直太は起き上がり、彼を見つめた。呼吸に合わせて動く胸部を確認して、またベッドへ転がる。彼の左手へ触れ、両手で握った。上半身を伸ばして、彼の額へキスをする。頬擦りするように顔を寄せると、自分の汗で滑った。
「夏輝先輩、お風呂、入れてきます」
 直太はシャワールームへ行き、バスタブに湯をはる。自分の体より、夏輝の体のほうが汚れていた。シーツで拭うより、風呂で洗い流したほうがいい。直太は彼の体を抱える。背負った時にも感じたが、彼の体は軽すぎる。バスタブは二人で入ると、少し狭かった。うしろから抱えるようにして、湯をすくい、彼の肩や首筋まで流していく。
 顔の傷と比べると、背中のアザは治りが遅いようだ。夏輝の体を少し前へ押して、彼の背中をよく観察した。殴ったというより、何かで叩かれたみたいだ。直太は折れた傘のことを思い出し、それで叩かれたのだと思った。直太も両親とけんかすることはある。だが、傷痕が残るほど激しく、一方的な暴力はなかった。
 にじんだ視界を擦り、直太は夏輝の体を抱き寄せる。彼は両親のもとへも友則のもとへも帰さない。決意を胸に秘めて、直太は夏輝を抱え、シャワールームを出た。
 夏輝の体を拭き、上着を布団代わりにした。彼はよく眠っている。空腹を感じて、テーブルへ視線を移した。弁当の横に彼へ渡していた薬の箱が置いてある。直太は彼の額へ手をあてた。まだ熱があった。薬を取り出し、彼の体を少し起こす。
「夏輝先輩、口、開けて」
 少しだけ体を揺さぶると、夏輝はうっすらと目を開けた。
「すみません、これだけでも飲んでください」
 白い錠剤をくちびるの間へ押し込み、水を差し出す。夏輝は小さく返事をして、薬を飲んだ。彼はすぐに目を閉じる。直太は枕を引っ張り、彼の上半身をゆっくりベッドへ横たえた。
 冷たくなった弁当を食べた後、直太もすぐに横になった。明日、ここを出たら、夏輝の服を買って、一緒に食事して、貯金がつきる前に働く場所を見つけて、と考える。この人と一緒に生きる。直太は腕の中の温もりを抱き締めながら、眠った。

 夢は見なかった。目を開けると、昨日と同じ服を着ている夏輝が、スマートフォンを耳にあてていた。うしろ姿で分からない。だが、彼の声は震えていた。言葉の内容から、自分の両親と話していると分かり、急いで起き上がって、彼の手からスマートフォンを奪った。電源を落として、ベッドへ投げた後、涙を流している彼と向き合う。
「何で……」
 なぜ、自分の親へ電話をしたのか。なぜ、謝罪していたのか。なぜ、泣いているのか。言葉にできず、直太はベッドへ座り込んだ。夏輝が隣に座り、「帰ろう」と言う。おまえでは無理だ、と言われているようで、悔しかった。握っていた拳に、彼の手が重なる。冷たい手だった。
「山崎、俺のこと、どれくらい好き?」
 涙を擦った夏輝は、少し笑っていた。彼を傷つける環境へ帰るという選択肢はない。それなのに、彼はもう決めていて、直太にはそれを覆す力がない。
「……すごく、すごく好きです、夏輝先輩以外、何もいらないくらい、好きです」
 夏輝の瞳を見ながら伝えると、彼の頬や耳が赤く染まった。ありがとう、と返してくれた彼は、俺も同じ気持ちだから、と教えてくれた。
「だから、山崎にはちゃんと高校を卒業して、大学に行ってほしい。今、俺のために全部投げ出せるなら、一生かけて俺の世話して」
 夏輝の言葉は正しい。高校中退で働くより、大学を卒業して就職するほうが、安定するだろう。そのほうが、彼のためにもなる。だが、自分が初任給をもらうまで、彼を一人にできない。
「俺は、家を出るから」
 直太の不安を読んだかのように、夏輝が告げた。



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