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 旅行用の歯磨きセット、下着、菓子パン、弁当、お菓子と飲料等をカゴに入れた直太は、ラムネ味のアイスを手にした夏輝を見て、ほほ笑んだ。
「先輩」
 カゴに入れるように促すと、彼は、「ごめん」と謝った。彼のサイズの服を買いに行くより先に、ドラッグストアで解熱剤を買ったほうがいい。直太はレジで支払いを済ませて、大きな袋を手に外へ出た。コンビニエンスストアの中をのぞき、時間を確認する。十九時半を過ぎたところだ。
 直太はアイスだけ夏輝へ差し出す。
「先輩、俺、あそこのドラッグストアで、薬、買ってきます。すぐ戻るから、ここにいてください」
 夏輝が頷いてから、直太は駆け足で道路を渡り、ドラッグストアを目指した。一度だけ振り返り、彼がその場にいることを確かめた。あの熱は風邪からきたものではなさそうだ。服を着せた時に見たアザのことを思い出し、店員をつかまえて、打ち身や捻挫に塗る薬はないか尋ねた。
 夏輝のところまで急いで戻ると、彼は少し笑った。右手に持ったアイスの棒を差し出して、一口だけ残っているアイスを見せる。
「溶けてるから、早く」
 食べるように言われて、直太は口を開けた。少し笑っていた彼が、声を立てて笑った。汗が吹き飛ぶくらい嬉しくなり、直太は彼を抱き締めたいと思った。彼がすべてで、それ以外は何もいらないと、そう確信できた。
 夏輝がクローゼットに隠した折れた傘のようにならなくて良かったと思う。傷ついているが、まだこんなふうに笑ってくれる彼を、どうしたらもっと幸せにできるだろう。直太はリュックサックにドラッグストアで購入した物を袋ごと入れて、左手でコンビニストアの袋を持ち、右手で彼の左手を握った。振り払われても握ろうと思っていたが、彼はただ握り返してくれた。

 フロントにあるパネルを眺めている間中、心臓が破裂するかと思った。夏輝に選ばせたほうがいいのか、自分で選んだほうがいいのか、分からない。その間も手をつないだままで、もし、他のカップルが入ってきたら、どうしようかと思った。
「せ、先輩、適当でいいですよね?」
 思い切って手を離し、尋ねると、夏輝は小さく頷いた。パネルのボタンを押すと、カードが出てくる。そのカード持って、もう一度、彼の手を握った。何かを期待しているわけではないのに、彼の顔を見られない。
「ここですね」
 中は薄暗い。夏輝が入ってすぐに、カードスイッチの場所を教えてくれた。そこへカードを差し込むと、部屋全体が明るくなった。
「エアコンの温度、下げたほうがいいですか?」
 リュックサックを下ろしてから、夏輝に確認する。彼は円形のベッドへ腰を下ろした。
「うん、下げていいよ」
 部屋の照明も少しだけしぼり、直太はすぐにドラッグストアで購入した薬を取り出す。
「先輩、これ、解熱剤と塗り薬です」
 夏輝は塗り薬の箱に書かれた、「打ち身や打撲に効く!」という言葉を見つめた。
「あ、あの、俺、見るつもりは全然なくて、でも、着替えさせる時に」
「分かってる。ありがとう。先にシャワー、浴びてもいい?」
「えっ、あ、はい、もちろんです」
 夏輝が歯磨きセットと新しい下着を持って、シャワールームへ入った後、直太はスマートフォンを取り出した。すでに電源は切っており、そのまま充電を開始した。コンビニエンスストアの弁当とペットボトルのお茶を、小さなテーブルに置き、椅子に座る。椅子は一脚しかない。ベッドに座ったが、落ち着かず、また椅子へ座った。
「山崎」
 汚れた靴ひもを眺めていたら、バスタオルを巻いた夏輝が出てきた。鎖骨から細い肩へ視線を移し、その白さに釘付けになってしまう。
「山崎もシャワー浴びる?」
 肩口に見えるアザが、彼の美しさと脆さを引き出しているように見え、そう考えた自分を責めた。自分は彼らとはちがう。


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