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 リュックサックを背負って、家を出ようとした時、母親に呼びとめられた。処分を受けているわけではないから、直太は自由に出入りできるはずだが、両親は外出に良い顔をしない。
「図書館、行ってくる」
「早めに帰ってきてね」
 直太は頷いて、強い陽射しを浴びた。駅まで歩き、コンビニエンスストアで水を買った。図書館へ行くというのは嘘だった。終業式までに、夏輝が入院している病院を見つけたかったのに、市内と隣の市の病院あわせて五つまわっても、彼は見つからない。
 水を一口飲んでから、駅のホームへ上がった。昨日、夏輝の家へ行った。彼の母親は自分が訪ねたことを秘密にしたようだ。今朝の両親はいつもと変わりなかった。夏輝を好きだと言ってから、両親とは気まずい雰囲気になった。こちらから、話そうとしても、その話題だけは避けられている。
 直太は空いている車内を見て、車両連結部に近い座席へ腰を下ろした。夏輝の母親は、彼がどの病院に入院しているのか、教えてくれなかった。帰り際に玄関で見せられた傘は、直太が夏輝に貸したものだった。それは、中棒が折れていて、彼女は弁償すると言ったが、直太は断った。まるで夏輝自身を見ているようで、直太はその傘を持ち帰り、見つからないようにクローゼットへ隠した。
 財布の中からメモを取り出し、斜線を引いた病院名を上から確認する。あの日から、すでに二週間も経っている。病院で彼の名前を出しても、そういう名前の患者はいない、と言われた。今日また一つめの病院へ行き、自分は何をするのか。よく分からないまま、家を出て、電車に乗っている。
 直太はリュックサックの底にある金融機関の封筒に触れた。夏輝を見つけたら、すぐに東京へ出られるように、二十万円ほど引き出していた。

 最初に訪れた時とはちがう受付の女性を見て、直太は少し安堵した。案内図を眺めて、迷っているふりをした後、直太は受付へ足を運んだ。
「西城先輩に頼まれたんですけど」
 夏輝の名前を出しても無駄だった。考え抜いて、友則の名前を出してみたが、受付の女性はあまり反応しなかった。
「あの、頼まれ物を持ってきてるんです。どこから上がればいいですか?」
 直太は焦りながら、適当に言葉を続けた。これで何も収穫がなければ、この病院ではないということだ。
「じゃあ、このゲスト用カードを持って、五階まで行って。特別個室はエレベーターを出て右手ね」
「あ、ありがとうございます」
 カードを手にした直太は、流れる汗も拭わず、そのままエレベーターへ飛び乗った。心臓が痛くなる。走ってはいけないと理解しているのに、五階へ到着した途端、直太は右手へ駆けた。特別個室は四室あり、カードと同じ番号の扉の前に立つ。扉を開ける前にノックをしたが、中から反応はなかった。
 直太は額の汗を拭ってから、カードをかざして扉を開けた。薄いクリーム色のカーテンが引かれていて、ベッドの足しか見えない。そのカーテンへ手をかけて引くと、眠っている夏輝がいた。
「なつき……先輩」
 顔の傷はずいぶん良くなっていた。直太は溜息をついたが、夏輝の左足首を見て、思わず薄い布団をめくった。手首と足首は拘束されている。
「夏輝先輩っ」
 大きな声で呼んだが、夏輝が起きる気配はない。どうして拘束されているのか、理由を考えるより先に、手が動いた。直太は拘束具を外して、彼のひざと首の下へ手を入れて抱える。
「あ……っと」
 直太は夏輝を抱えてはじめて、彼がカテーテルをしていることに気づいた。もう一度、ベッドへ戻し、病衣のひもを解いてから、カテーテルの先を確認する。直太はリュックサックの中から衣服を取り出した。ここから連れ出すには着替えが必要だと思い、準備していたものだ。
「ごめん、先輩」
 カテーテルを右手で引き、夏輝のペニスへそっと触れた直太は、病室から連れて逃げることしか考えないようにした。だから、彼の背中や太ももに赤や紫の内出血を見つけても、涙をこらえて衣服を着せた。



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