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 寝返りができずに、目を開けた。カーテンの隙間から入る光で、自分の部屋ではないことが分かった。最後の記憶をたどり、病院だと理解する。どうして動けないのか、夏輝は視線を動かした。手首と足首に拘束具が見えた。驚いて、手足を動かした。だが、拘束が緩むことはない。
 少しパニックになりながら、喉の渇きと激しい尿意を同時に感じて、動きをとめた。ナースコールは右手のそばにあり、看護師を呼ぶことはできそうだ。
「っあ……」
 体が勝手に判断し、徐々に尿意が消えていく。夏輝は薄い布団をめくり、自分の足の間を確認した。カテーテルを通り、排出される尿を見て、溜息をつく。どれくらい寝ていたのだろう。先ほどは気づかなかったが、全身に鈍い痛みがある。ナースコールを押すと、すぐに看護師が入ってきた。
「あの、俺、どれくらい」
 少し体を起こして、夏輝は看護師が差し出した水を飲んだ。彼が点滴とは別の液体を注射してくる。
「……それ、何ですか?」
 夏輝の左腕に液体を注射し終えた彼は、何も答えずに出て行く。夏輝はとつぜん襲ってきた眠気と戦いながら、何度か腕を動かした。その動きがしだいに遅くなり、視界が暗くなった。次に目覚めたら、ナースコールは押さない。夏輝は眠りに落ちる寸前、そのことだけを強く思った。

 右頬をなでられて、夏輝は目を開けた。視界の広さに、左目も開いていると分かる。手を動かして、目に触れようとしたら、拘束具が音を立てた。
「おはよう、夏輝」
 制服姿の友則が頬に触れていた指先でくちびるにも触れた。
「喉、渇いてる?」
 水差しを差し出す友則が、笑みを浮かべながらも怒っていると感じて、夏輝は首を横に振った。彼は椅子を引き、座ると、いつものように足を組んだ。
「終業式、終わったよ。十日も寝てた、というより、寝かせてたんだけど」
 夏輝は何も言わずに、友則の話を待った。
「停学処分になってるから、二学期からは普通に通えばいい。あの一年も終業式まで欠席してたけど、二学期から何事もなかった顔で来るかな? おまえのこと、好きって親の前でも言ったんだって?」
「それはっ……俺のこと、親が殴ったから、かばってくれようとして、たぶん、本気じゃない、ほんとに、それに、俺は……」
 彼に気がない、とはっきり言えなかった。直太は堂々と好意を見せた。そのことを思い出して、言葉につまる。だが、彼を守るために、嘘をつかなくてはいけない。夏輝はすぐに口を開いた。
「俺が好きなのは友則だけだから、何でもする。友則のためなら、何でもする」
 友則の瞳から怒りが消え、彼は魅力的な笑みを浮かべた。
「夏輝」
 立ち上がって、こちらへかがんだ友則が優しくキスをする。まだ傷跡の残るくちびるの端をなめた彼は、拘束具を外してくれた。それが解放を意味する行為ではないと分かっていた夏輝は、彼の指示を待つ。
「夏輝の父親って、過激。きれいな顔、台なしだ」
 そう言いながら、友則はベッドに上がってきた。仰向けに寝転がった彼は、前を寛げる。
「あいつにしたみたいに、コンドームもラップも使わないで、全部、飲んで」
 夏輝は一瞬、怯んだが、すぐにベッドへ手をついて、彼の足のほうへ移動した。体がうまく動かせない。手でチャックを下ろし、彼のペニスへ口を寄せた。気分が悪くなる。
「夏輝さ、今、カテーテル入れられてるだろ? そこ専用のバイブがあったから、それ、誕生日にプレゼントするよ」
 ペニスから口を離して、顔を上げようとしたが、友則の手が頭を押さえつけた。息が苦しい。嗚咽を漏らしながら、涙を流すと、彼の手がいらつきを隠さずに髪を引き、頭を押した。一方的に揺さぶられ、歯を立てないよう唇に力を込める。夏輝は口の中に広がる液体を必死に嚥下した。
 友則の手が離れてから、顔を上げると、彼がスマートフォンをこちらに向ける。
「これの時と全然ちがうって、気づいてる? 俺を愛してるなら、俺にもこういうふうにやってよ」
 直太のペニスを丁寧に愛撫する自分を見て、夏輝は涙を拭って目を閉じた。友則のことが好きだと言い聞かせて、目を開き、彼へ甘えるように腕を伸ばした。指を絡ませて、ほほ笑みながら、彼のペニスをくわえる。目の前が真っ暗になった。だが、自分は正しい選択をしている。直太を守るための、正しい選択をしている、と夏輝は考えた。


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