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just the way you are14

 帰宅したら、母親が待ち構えていた。友則がパソコンを使って一斉送信した動画を見たのだろう。直太の傘を持った彼女は、それで夏輝を叩いた。友則によって竹刀で受けた背中の傷に当たると、涙が出るほど痛い。泣き始めると、女々しいと怒られた。
 母親が学校からの電話に出ている間、夏輝は直太の傘へ触れた。あの時は濡れずに帰ることができた。わずかな思い出に浸っていると、父親が帰ってきた。それから、また辛い時間が待っていた。ヒステリックに叫んだ母親に、俺じゃない、と言った。
 殴られて、責められて、疲れていた。友則が悪い、と返したら、その友則が学校にかけあってくれたから、停学の方向で話が進んでいると言われた。友達を悪者にするのか、と責められ、どうして自分が悪いと認められないのか、と認めるまで殴られた。
 恋人になることを強要された時のように、すべてが友則の思惑通りに進んでいた。自分の両親ですら、彼は窮地を救ってくれる素晴らしい人間と称される。誰も聞いてくれない。夏輝は少し開いている扉を閉めようとした。光の線が細くなり、いずれ暗闇だけになる。
「先輩」
  直太の顔も指も、二重に見えた。彼の手が伸びてとまる。閉じようとした扉から手を離し、直太は彼を見た。
「教育を間違えました」
 母親の声に、すぐに視線を落とした。直太の前にいることが恥ずかしかった。両親に殴られ、彼らの言葉に傷つくさまを見せることが、耐えがたかった。
 玄関の床に黒いしみを見つけた。直太を傷つけただけではなく、彼の家を汚してしまった。夏輝はポケットからハンカチを取り出して、玄関の床についたしみを擦った。
「夏輝先輩」
 直太の声は震えていた。自分のために泣いているのだと分かった。父親の手を振り払ってくれた時、夏輝の心は揺さぶられた。彼だけが聞いてくれる。
 まだ二重に見える直太の顔を見つめた。彼を見つめたのは、ほんの数秒だったが、父親の拳が顔を殴打した。
「おまえは、いい加減にしろ! 立て! 本当にすみませんでした。また改めます。これ、わずかですが」
 夏輝の父親から紙袋が差し出された。直太は受け取らず、代わりに彼の母親が受け取った。
「待って、ちゃんと話、聞いて」
 直太は彼の両親と夏輝の両親、双方に話しかけた。
「あれは合意だし、俺、夏輝先輩のことが好きだから」
 直太の気持ちは過去形ではなかった。たったそれだけのことに、喜びを見出している自分に気づき、夏輝はくちびるをかみ締めて、涙をこらえた。そのまま深く頭を下げて、先に外へ出る。
 父親が車を停めた場所まで歩いた。両親に追い抜かれ、早くしなさい、と声をかけられる。手を引いてくれた直太のことを思い出した。あの手に引かれて、どこまでも一緒に歩いていけたらいいのに、と車の中で目を閉じた。胸が苦しい。背中や顔の痛みに加えて、息が苦しくなる。
「夏輝」
 母親の声に目を開けると、少しも休んだ感覚がないのに、家に到着していた。
「お母さん、俺……病院に……」
 夏輝は父親が駐車した車に手をつく。左手で胸を押さえたが、立っていることができずに、その場へ倒れた。
「夏輝?」
 母親の声とこちらに走行してくる車の音が聞こえた。扉が開く音の後、父親が彼の名前を呼んだ。西城君、とはっきり聞こえて、夏輝は暗闇の中を這うように、扉から遠ざかる。
「病院に連れて行かないと」
「こちらで手配します。その辺の病院だと、虐待を疑われますよ」
 夏輝が振り返ると、閉めなかった扉のほうから足音が聞こえた。怖くて、すがるように伸ばした手の先に、直太を求めた。指の間にフェンスが見える。その向こうを走る直太を呼んだ。
「……や、ま……ざ……き」
 助けて、という言葉は飲み込んだつもりだった。


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