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just the way you are13

 目が覚めた時、直太は近所のクリニックにいた。小さい頃から通い慣れたクリニックは二階に二床だけベッドがあり、インフルエンザにかかると、ここで点滴を打ってもらう。ただ寝かされていただけの直太はそっと起き上がり、ベッドから降りた。エレベーターではなく、階段を使って下へ行くと、ちょうど両親の姿が見えた。
「直太!」
 母親の表情を見て、彼女が泣いていたと分かり、気まずくなる。何があったか分からないが、父親まで迎えに来ているのだから、自分の身に何かあったのは確かだ。
「俺、どうかした?」
 医者が、おそらくストレスからきた過喚起症候群だと教えてくれる。ストレスという言葉に反応して、今日の放課後に起きた出来事を思い出したが、直太は両親へ笑って見せた。母親が泣き始める。父親も涙ぐんでおり、「家で話そう」と言われた。
 クリニックから家までは徒歩三分ほどの距離だが、リビングに入り、席に着くまで、とても長い時間に感じた。テーブルの上には直太のスマートフォンがある。暗証番号を入力しない限り、中を見ることができないから、直太は安心していた。
 ずっと泣いている母親へ声をかけようとした時、父親が彼自身のスマートフォンをこちらへ向けた。メールの差出人は誰か分からない。だが、夏輝の名前がアルファベットで入っており、添付ファイルは動画だった。それを見た瞬間、直太は立ち上がった。
 自分のスマートフォンを立ち上げ、メールを更新すると、同じものが届いている。件名には、『またやらせて』と書いてあった。
「……うそ、だ」
 両親の瞳がこちらを見つめる。
「ちがう、ちがう!」
 完全に誤解させる内容だった。両親は話さなくても理解していると手を握ってくる。
「ちがうんだって、これは……」
 インターホンが鳴り、母親が応対する。彼女は父親だけを連れて、玄関へ向かった。
「あなたは出てきてはだめ」
 そう言われて、直太はリビングに残った。生徒会室に置いてきたはずの鞄が、ソファの上に置いてある。直太はもう一度、スマートフォンを操作して、送られてきたメールを見た。夏輝ではない誰か、それは考えるまでもなかった。
「帰ってください!」
 母親の怒鳴り声を聞いて、直太はリビングを出た。夏輝を置いて逃げた代償がこれなら、あまりにも大きい。両親の間から見えた夏輝は、そばで見なくても分かるほど震えていた。あまり広くはない玄関に、彼の両親と彼が並び、土下座していた。
「夏輝先輩……」
 近づこうとすると、父親が間に入る。
「おまえは中にいなさい」
「いやだ、先輩と話したい、通せ!」
 直太は父親より長身であり、力ずくで彼を押しのけることは簡単だった。
「夏輝先輩!」
 少し動いた夏輝の後頭部を彼の父親が押さえつけた。鈍い音が響く。
「このたびは愚息がとんでもないことをしてしまい、申し訳ありませんでした」
 夏輝の父親の言葉は耳に入ってこなかった。彼の額が玄関の床に当たった鈍い音に、直太の心は深くえぐられていた。彼の両親さえも、彼を力で屈服させている。誰も彼の声を聞いていない。
「やめろよ」
 夏輝の頭を、力ずくで押さえている彼の父親の手が気に障った。少しでも夏輝が動くと、その手が押さえつけて、そのたびに彼の額が床に当たる。
「それ、やめろって言ってるだろ!」
 直太が夏輝の父親へ飛びかかると、母親たちが悲鳴を上げた。殴ろうとしてやめたのは、自分の父親にとめられたからではない。夏輝の声が聞こえたからだ。
「……やまざ、き、ごめん、ほんとうに、ごめん」
 こちらを見上げた夏輝の顔に、直太は言葉を失った。殴打による内出血と腫れのせいで、左目は完全に閉じられており、くちびるの端には血が固まっている。
「先輩」
 夏輝に触れることができなかった。彼の母親が、「教育を間違えました」と言い、顔の傷は両親によるものだと理解した。


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