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 直太は手の中にあるスマートフォンを握り締めた。クラスメイトから話しかけられても、ほとんど話を聞いていなかった。
 昨日、部屋に戻ってから、何度も画像を見つめた。すぐに消去すべきだと分かっていたが、その画像はまだ残してある。直太自身は、夏輝にこういう行為を求めているわけではない。それなのに、こういう行為をする彼を想像して自慰した。自分は嫌なやつだと思った。彼の前ではきれいごとを並べて、彼に隠れて彼を汚している。
「直太?」
 肩を叩かれて、直太は我に返った。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
 直太は個室に入り、スマートフォンから画像を消した。たった一枚の画像で、夏輝を傷つける側に立つのは嫌だった。削除すると、後ろめたい気持ちは少しおさまった。トイレから出て教室へ戻る途中、陸上部の先輩が廊下に立っていた。
「直太、部室、来る前に生徒会室、行って」
 いら立った口調で言われて、直太は返事をせず、先輩の言葉を待った。
「おまえ、昨日、俺が言ったこと、全然聞いてないな。西城には逆らうなよ」
 生徒会長の名前を聞き、直太は昨日、夏輝の画像を送ってきたのは誰なのか、ようやく理解した。夏輝を助けるために、何をしたらいいのか分からないが、生徒会長を避けることはできない。
 直太は授業を受けながら、夏輝の涙を思い出していた。生徒会長から何を言われるのか、だいたい想像はつく。だが、彼を恐れていては何も始まらない。

 午後の二つ目の授業が終わった後、直太はまっすぐ生徒会室へ向かった。引き戸の扉をノックすると、中から生徒会役員の一人が顔をのぞかせた。
「あぁ、入って」
 彼に招かれ、中へ入る。ロの字形に配置された長机の上には、プリントされた配布物が並んでいた。一番奥の椅子に生徒会長である西城友則が座っている。直太はこちらを見て、かすかにほほ笑んだ友則に嫌悪を感じた。自分のほうが優位だと強調しているようだ。
「一年三組の山崎直太君だね。そこに座って」
 対面に座るように指示され、直太は大人しく席に着いた。友則は足を組み替え、もう一度、今度は分かりやすい笑みを浮かべた。彼は優しい先輩に見えるが、そうではないことは分かっている。
「夏輝に興味があるって聞いたんだ」
 配布物を一枚ずつ取り、ステープラーで端を留めていく音が、直太にはとても大きい音に聞こえた。他の生徒会役員たちは、無言で作業を繰り返している。それを異常に思うと同時に、彼らが友則側であり、夏輝を傷つけている人間だと確信した。
「西城先輩は夏輝先輩と付き合ってるんですよね?」
「そうだよ」
 直太は長机の下で、拳を握った。
「どうして、夏輝先輩を傷つけるんですか?」
「それ、君の主観だろ。こっちの質問にも答えてくれ。どうして、夏輝の手を握った?」
 友則の目は、笑った瞬間とは別人のような鋭い目つきに変わった。正直に言えば、彼に争いを仕掛けることになる。そして、夏輝にも迷惑がかかるだろう。だが、嘘をついて、この場をしのごうとは思わなかった。
「夏輝先輩が好きだからです」
 生徒会役員たちの手がとまり、一人が、「青春ってやつ?」と茶化した。直太の言葉に友則は夏輝を呼んでくるように命令し、感謝の言葉で返した。
「そっか。好きだから、手、握ったんだ。ありがとう、正直に言ってくれて。嘘をついた夏輝には罰が必要だけど、きみにはお礼をしないといけない」
 どうしよう、と考えた時には遅すぎる。直太は自分が後戻りできないところへ来たのだと知った。



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