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 外から校庭へ戻ると、予想通り、怒られた。だが、直太は素直に謝り、先ほどの出来事を反すうしていた。夏輝のくちびるは柔らかく、髪からは良い香りがした。もっと話したい、もっと触れたい、という願望が強くなり、夏休みには二人でどこかに出かけたいと夢想する。
「直太、ペース速すぎ」
「え、あぁ、うん」
 部員の声に返事をしながら、直太は生徒会室がある校舎へ視線を向けた。夏輝は頷かなかったが、あの涙は答になる。彼らは付き合っていない。無理強いされている。少しペースを落として、うしろを走る先輩の横についた。
「先輩、前に、部室棟の裏で生徒会長とか見ましたよね」
「あぁ」
「あれ、いじめじゃないって言ってましたけど、何でですか?」
 呼吸にあまり乱れのない直太と異なり、先輩は苦しそうに、短い呼吸を繰り返していた。彼は急に立ちどまり、「ちょっと待った」と手をひざに当て、うつむく。直太もとまると、ストップウォッチを持った部員が、走れ、と命令してくる。直太は、「ちょっと休憩、限界!」と叫んだ。
「何だよ、とつぜん。あいつらのことは放っておけって言っただろ」
 腕で汗を拭った先輩は、直太を見つめて、ため息を吐く。
「西城は市議会議員の息子で、警察とか、色々、顔が利く。意味、分かる?」
「分かるけど、夏輝先輩を助けない理由になりません」
 校庭の砂は乾いていて、風が吹くと砂埃がたった。
「なつきって、おまえ、マジかよ……」
 直太は本気で夏輝を助けられると信じていた。それを見抜いた先輩は、声を落として話した。
「現実、教えてやる。俺、去年、里村と同じクラスだった。里村が西城に何したか知らないけど、夏休み明けにメールが来て、里村を無視しろって書いてあった。無視しなかったやつらは生徒会室に呼ばれて、ボコられて、結局、皆、いじめに加わった。その後は今の状態。先生たちでさえ、何もできない」
 夏輝はもう一年以上も苦しんでいる。それが直太の考えたことだった。
「先輩もやられたんですか?」
「……あぁ、金と力があるやつに逆らったら、どうなるかよく分かった。だから、おまえも関わるな。どうせ俺たちはあと少しで卒業だし、里村もそれで解放されるって思ってるだろ」
 直太は校庭を走る部員の邪魔にならないよう、駆け足で端まで行った。
「どうした?」
 記録係をしている先輩に声をかけられ、「気分が悪いから帰ります」と告げる。本当に気分が悪かった。戻ってきた時は幸せな気分だったが、今は最悪だった。声を上げずに泣いた彼の表情を思い出す。教師にも助けてもらえず、ずっと嫌な思いをしてきた。いじめに加わらない生徒まで巻き込んで、皆から無視されて、どんな気持ちだっただろう。
 部室でスマートフォンを取り出して、生徒会長の名前を検索する。剣道部の彼は、様々な記録を残しているが、彼の名前で検索すると、父親の名前も出てくる。大人たちには事情があるかもしれない。だが、自分はちがう。
 直太は夏輝を助けると決めた。自分のことよりも、今苦しんでいる彼のほうが重要だった。あとで振り返った時、たいしたことではなかった、と二人で笑える日が来ると思っていた。

 夕陽がまぶしい電車の中で、通知を告げる振動があった。直太はポケットからスマートフォンを取り出し、知らないIDから届いた通知を開いた。
「え……」
 手の中から落ちたスマートフォンを慌てて拾い上げた。自分の体で隠すようにして、もう一度、送られてきた画像を見た。夏輝がペニスを口へ含んでいる姿を、横から写したものだった。



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