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 放課後、生徒会が集まるのは、東側の三階にある空き教室だ。教室といっても黒板はなく、ホワイトボードとロの字形に配置された長机と椅子があるだけだ。夏輝は机の下で生徒会役員の性器を順番にくわえていた。最初は嫌だった。今は何も感じない。ただ早く済ませて、帰りたいと思いながら、舌を動かす。
 コンドームがもったいない、とラップを巻く連中もいるが、生徒会役員の中にはいない。パイプの椅子がうしろに少し引かれて、夏輝が奉仕していた下級生の役員が手で肩のあたりを突いた。
 机の下から這い出して、夏輝はホワイトボードのそばに置いてあった鞄を手に取る。友則は職員室に行ったまま戻ってこない。
「もう一回やる?」
 副会長の言葉に夏輝は頷いた。視線を上げなくても、彼らが自分をあざ笑ったことが分かった。口での奉仕は、友則を拒絶した罰だ。彼が許してくれるまで、受け入れなければならない。もし、この罰まで拒絶したら、力ずくで犯すと言われた。その詳細を聞き、夏輝から、何でもすると口走った。それ以外なら、何でもすると自分で言ったから、おまえが望んだことだと言われる。
 罰は徐々に激しくなり、生徒会役員だけだったはずが、全校生徒が対象になった。友則を通せば、誰にでも奉仕してくれる。そういう噂はすぐに広まり、夏輝は名前さえ知らない生徒に口で奉仕していた。
 時々、裸でやれと言われたり、手を拘束された。友則はそうやって限界まで追いやろうとする。嫌だと言えば、すぐに終わるが、それは彼へ絶好の機会を与えることに他ならない。
 引き戸になっている扉が開き、友則が入ってきた。彼はゴミ箱を一瞥して、「二週目?」と声をかける。プリントの束を机に置き、しゃがみ込んで、こちらを見つめるその笑みは、友人だった頃の優しい笑みと変わりない。
 副会長の右足が夏輝の足を軽く蹴った。口を離すと、彼は射精し、コンドームの先に精液が溜まった。
「まだやることあるから、先に帰るか?」
 友則の言葉に頷くと、彼は笑って、「じゃあ、それ飲んでから」と言った。それ、と示された先には、副会長がゴミ箱へ投げ捨てたコンドームがあった。夏輝は右手を握り締める。飲めと言われたのは初めてだった。
「嫌なのか?」
 拒否するかしないか、試されている。こうして限界を試される時、拒否すればいいと考える自分がいる。嫌だと言ってやればいい、と叫んでいる自分だ。同時に、友則に言われた言葉を一言一句連ねて、怯えている自分もいる。そんなことができるはずない、と思うのに、拒否しただけで始まった去年の夏からの出来事が去来する。
 職員室へ入ると、教師は誰も目を合わせてくれない。相談されたら困るからだ。友則の父親は市議会議員だった。自分の家族には絶対に言えない。偽りの彼女を見た時の両親の表情は、夏輝の脳裏に刻印のように残った。
 ゴミ箱から使用済のコンドームを手に取り、中に溜まっていた精液を指で押し上げた。視界がにじみ、涙があふれる。自分に何か価値があるのかと思う。この屈辱や悲しさをたいしたことではなかったと思える日が来るなら、夏輝は今すぐ楽になりたいとさえ思った。
「そこにあるやつ、全部飲め」
 ティッシュに包まれたコンドームに手を伸ばす。雨粒が窓に当たって、音を立てていた。夏輝は泣きながら、良かったと思う。濡れて帰れば、母親に涙の跡を見られないからだ。

 トイレで吐き、口をゆすいだ後、夏輝はためらうことなく傘をささずに外へ出た。明日も雨だといいと思った。頬にあたる激しい雨とは別の温かい滴を感じる。それを拭って歩いていると、頭上に傘が差しだされた。知らない下級生だった。
 突き放しても追いかけてきた彼は、同じようにずぶ濡れだったが、何か下心があるのではないかと疑った。傘の持ち手へ誘導する大きな手は、とても熱い。
 信号が変わった。夏輝は雨に打たれながら、校舎へ戻る彼の背中を見つめた。彼の姿が完全に消えた後、傘の持ち手へ視線を落とす。山崎直太と書かれたシールが貼られていた。
 大きな傘は薄い水色で、見上げるとまるで青空のように見えた。ここから先は濡れないで帰ってください、と言った彼の言葉通り、夏輝はそれ以上濡れずに家へ帰った。


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