never let me go48 | ナノ





never let me go48

 窓の外を見ていたマリウスが、散歩に行くかと尋ねてきた。ディノはコーヒーの入ったカップをテーブルへ戻してから、彼の隣に座り、同じように外を眺める。雨に近い雪が降っており、散歩日和ではない。
「外に出たいか?」
 ここ数日の冷え込みもあり、ディノはマリウスを外へ出さなかった。室内ばかりでは飽きるかと思い、何度かピネッリ家の屋敷のほうへも遊びに行ったが、場所を変えただけで室内であることには変わりない。
「リスはさむくないかな? ちゃんとおうちにいる?」
 マリウスの言葉にディノはほほ笑んだ。彼はお気に入りのリスのフィギュアを並べている。
「ちゃんとおうちにいるよ。落ち葉のベッドで温まりながら、皆一緒に冬を越すんだ」
「おちばのベッド?」
「あぁ、でも、俺達にはもっと温かいベッドがあるから、いらないけど」
 そう言わなければ、自分も落ち葉のベッドが良いと言い出しそうだったから、ディノは慌てて返した。四つ這いになったマリウスは、そのままおもちゃ箱のほうへ向かった。彼の置いたリスを見つめながら、今朝、ウェブで見たニュースを思い返す。
 テレビを設置しなかったことは正しい。マリウスが何かの拍子にチャンネルを変えて、今朝見たニュースが流れたら、と考えると恐ろしくなる。
 ディノが今朝確認したニュースは、セレーニ家所有の山から数多くの白骨遺体が見つかったというものだ。あの弁護士に情報を伝えてから三週間、警察もきちんと仕事をしてくれた、とディノは小さく息を吐いた。
 アレッシオはうまく切り抜けるだろうが、これを機にソットマーレのような店に警察も少しは介入するだろう。
 そういえば、とディノは自分に情報をくれた情報屋の男のことを思い出した。彼へ渡す報酬を忘れていたが、果たして自分の情報など何の役に立つのだろうと考えた。何も言ってこないということは、フェデリコがすでに手を回してくれたにちがいない。
 ここへ来てから、月日の経過はあっという間だった。マリウスを助けた時、彼が話すことはもうないと予測していたし、それは医者の言葉でもあった。だが、彼は言葉を取り戻し、少しずつ前進している。
 乾燥機の音にディノは立ち上がった。少し生乾きのものもあるが、干しておけばすぐに乾く。ディノはすでに乾いている洗濯物と分けて、アイロンがけが必要なものを手にしてメインベッドルームへ入った。出したままのアイロン台の上には順番待ちの山ができている。マリウスが見える場所へ移動させよう、と思い、山のような洗濯物を一度ベッドへ置いた。それから、アイロン台を持って、ドアのそばへ置く。
 視線の先にはマリウスが見えるはずだった。だが、先ほどまでおもちゃ箱のそばにいた彼の姿はなく、代わりにウッドデッキへ続く掃き出し窓が開いていた。
「マリウス」
 当然、室内にいると思い、呼びかけるが返事はない。ディノは窓を開け、ウッドデッキへ出た。
「マリウス!」
 雨はやんでいたが、風が強く、ディノは中へ戻り、コートを手にした。
「マリウス!」
 もう一度、室内で呼びかけたが、彼からの返事はない。一人で外へ出るなんて考えられなかった。ディノはそれでも、名前を呼びながら、庭へ出る。マリウスは歩けない。這っていける距離は知れている。屋根のあるウッドデッキとは異なり、庭の道は雨で多少ぬかるんでいる。
 落ち葉のベッド、という言葉を後悔した。マリウスが外に出た理由はそれ以外、考えられない。以前の彼なら、それを聞いても外には出なかったはずだ。だから、この変化は言葉と同じく、歓迎するべきものかもしれない。だが、彼の身に何かあっては意味がない。
「マリウス!」
 湖まで百五十メートルほどある。そこまで行けるだろうか。ディノは名前を呼びながら、森の中で目を凝らした。ブーツではないため、靴はすぐに濡れた。手袋をしていないマリウスの手が、この濡れた地面に触れていると考えると、平静ではいられなくなる。


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