never let me go46 | ナノ





never let me go46

 ディノは車椅子を押し、一階の大広間から近い客間へ入る。そこはピネッリ家がマリウス専用に造り替えた部屋だった。フェデリコはいないが、マリウスがおじいちゃんと呼ぶ彼の父親が破顔した。マリウスには笑みを見せた彼は、ディノへ鋭い視線を送り、頷く。
「マリウス、おじいちゃんと遊んでてくれ」
 車椅子から降ろしてもらったマリウスは、振り返って首を傾げる。
「すぐに戻る」
 安堵させるように頭をなでると、マリウスは頷いた。
「すぐ?」
「あぁ、すぐだ」
 今朝の電話の相手はフェデリコだった。弁護士が訪ねてくる、という一言で始まった話を聞き、ディノは自分が相手をすると返事をした。
 ニケ・ルーベルという青年の弁護士だと名乗る男は、約束の時間十分前にピネッリ家の屋敷へやって来た。ディノは目の前に座る弁護士が差し出した名刺を受け取らず、彼が少し困惑する様子を冷めた目で見た。
「用件を言え」
 青年のことは知っている。マリウスに乱暴されたと嘘をついた施設の子供だ。その彼の弁護士を歓待するわけがない。
「ここに、マリウス・ホワ……カヴィオス氏がいると聞いてきたんです」
「誰に?」
 ディノはメガネに触れた弁護士を観察した。ニケに弁護士を雇う金はないだろうから、おそらくどこかの団体か何かが彼を支援しているに違いない。それでも、物怖じする弁護士しか雇えないのか。ディノは自分の前で完全に萎縮している男をさらに見つめた。情報源を話すかどうかで、こんなに悩むなら、ここへは来るべきではない。
「アレッシオ・セレーニからだろ」
 できるだけ早くマリウスの元へ戻りたい。ディノは小さく溜息をついた。弁護士は肯定するように、驚きを見せた。
「早く用件を言え」
 ディノ自身は武装していないが、扉のそばへ立つ二人へ視線を送れば、彼らが目の前の男を殺してくれるだろう。ディノの頭には名簿がある。アレッシオにもう殺しはやめると言ったから、マリウスのそばにいることが一番大事なことだから、名簿の名前に線を引くことはやめた。その名簿には当然、ニケ・ルーべルの名前もあった。
「あの、実は、ニケは虚偽の申告をしてしまったと悩んでいて、それで、相談を受けたんです。養護施設内の犯人は別にいて、その犯人に脅されて仕方なく、カヴィオス氏の名前を言ってしまった、と」
 弁護士はそこで話を切ったが、ディノが口を閉じていると、すぐに続きを話した。
「警察にはすぐに事情を伝えました。この件については、ニケも十分に反省しています。彼の望みは……っわ」
 ディノは怒りを制御できる。だが、今はできなかった。弁護士の頭上に擦れそうなほどの軌道で、テーブルの上にあったガラスの灰皿を投げた。派手な音とともに灰皿が割れた。男達を視線で制し、ディノは弁護士を睨んだ。
「謝罪か?」
 声が出ないのか、弁護士は何度も頭を上下させる。ディノは警察が指名手配を解いていないことを知っていた。ニケが虚偽の申告だったと明言しても、マリウスには余罪があると見られている。誰もマリウスの望みを聞かない。それなのに、相手はマリウスに要求してくる。怒りで腹部が熱くなる。ディノは見失いそうな理性をつかむように、自らの腹へ拳を軽く当てた。
「遅かったな。マリウスは死んだ」
 弁護士は瞳を見開いたが、メガネレンズ越しでは小さく見えた。
「ここにはいない」
 短い言葉で印象づけながら、ディノは自らが知る限りのアレッシオの情報を思い出す。
「あの映像を、おまえも見ただろう?」
 アレッシオが拡散させた映像は、「正義による制裁」というタイトルが付けられていた。マリウスが一方的に陵辱されていくその映像は、一部に流されたわけではなく、インターネットにアクセス可能な者なら、誰でも見ることができた。性犯罪者とはいえ、あまりの凄惨さに、マリウスは殺されたという噂もあった。
「あれはアレッシオが撮影した」
 ディノはこの弁護士の口から、当局の関係者へ伝わればいいと考えた。そして、当局の目がセレーニ家へ向けばいい。
「セレーニ家所有の南部の山でも調べてみるんだな。白骨化した相手で良ければ、そのニケって子に謝らせてやれよ」
 ディノが目配せすると、男達が弁護士の腕をつかむ。彼は慌てたが、男達は有無を言わさず、部屋から追い出し、玄関へ引きずっていった。


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