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meteor21

 由貴が最初に感じたのは暑さだ。じっとりと汗ばんでいて気持ち悪い、と由貴は夢の中で思う。
 その後に小さな物音が聞こえた。はっとして、目を開けるとシャッターの隙間から光が見える。アランの腕の中で土曜日の朝を迎えた由貴は、ゆっくりと起き上がる。
 振り返ってアランを見ると、彼は彫像のように絵になる格好で眠っていた。ちょうど彼の腰辺りを覆っている薄手のタオルケットを持ち上げると、彼も下着を身につけている。つまり、昨日はそのまま眠ってしまったのだと由貴は確認した。
 ペットボトルのミネラルウォーターをグラスに注ぎ、由貴は一気に飲み干す。少しだけ頭が痛い。皺にならないように脱いだはずの衣服は、冷たい床の上に放置されていた。
 せめてハンガーにかけなければ、と由貴は客室へと歩き出す。すると、足元がふらつき、壁に手をついてから一呼吸置いた。
 由貴はもう少し水を飲まなくては、と考えた。二日酔いになるまで飲んだ覚えはないが、昨日は気分が高揚していて、いつもよりアルコールのまわりが早かった。
 いったん部屋へ引き返し、ミネラルウォーターをグラス一杯飲んでから、また客室へ歩き出す。
「ぅわあっ!」
 客室の扉を開こうとした時、一瞬早く扉が開き、由貴は身をすくませる。驚いたせいで避ける動作が遅れたため、中から出てきた相手と思いきりぶつかった。
 痛かったのは尻もちをついた由貴のほうだが、声を上げたのは相手だった。由貴はまだ起きたばかりで、いまいち状況を把握できない。
「あ、あぁ!」
 しまったと言わんばかりに、彼は口元を押さえた。眩しいブロンドの彼を、由貴は見たことがある。
「ゴメン、ゴメン! 週末は来ない約束だったけど、忘れ物しちゃって、どうしても取りに来なくちゃいけなくてね」
 淡いブルーの瞳は思わず見惚れてしまうほど透明感があって美しい。由貴が早口の言葉を理解する前に彼は続ける。
「大丈夫だった? どこも打ってない?」
 彼は手を差し伸べて、由貴が立ち上がるのを助けようとした。だが、由貴はまだ状況把握ができず、ただただ彼を見上げるばかりだ。
「あれ? 言葉、分かるよね?」
 由貴の無反応を、言葉の壁と誤解した彼が首を傾げる。
「どうした、ヨシタカ?」
 声が聞こえたのか、寝室からアランが顔を出す。由貴が振り返ると、アランが眉間に皺を寄せていた。
「クリス、週末は来るなって言っただろう」
「いや、分かってるけど、ジャンのデザイン画を忘れてきちゃって、どうにもならないから取りに来ただけだよ。悪かったよ、邪魔して」
 クリスと呼ばれた彼は決まり悪そうに言い、踵を返して客室の中へと消える。そして、すぐに出てきたかと思うと、その手にはいくつかの仕事道具とデザイン画の入ったファイルがあった。
「ごめんね、ヨ……ヨシタ?」
「ヨシタカ」
「あ、あぁ、ヨシタカ、ね」
 アランに由貴の名前を聞いたクリスは、きっちりと由貴の名前を言い直した。にっこり笑った後、彼はさっさと玄関の扉を開けて出ていく。
「あ」
 扉を閉める前に、クリスは顔だけを覗かせて告げる。
「二人とも、すごくニンニク臭いんだけど、いったいどんなプレイしたの?」
「帰れっ!」
 アランの怒りの声に、クリスは大笑いしながら扉を閉めた。由貴はまだ立ち上がれず、今起きたことを再確認する。
「アラン?」
 アランが由貴の腕をつかんで立ち上がらせてくれる。
「あの人、誰?」
 突然の訪問者に不機嫌そうな表情だったアランだが、由貴が聞くとふっと表情を和ませた。

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