never let me go34 | ナノ





never let me go34

 バイパス沿いにあるレストランの駐車場へ車を停めたディノは、一度、車から降りてレストランへ入ることにした。コーヒーを注文し、レストルームへ向かう。個室の中で拳銃を右の靴下の中へ入れた。身体検査をされれば、すぐに奪われるだろうが、ディノ自身は拳銃ではなく、ナイフがあれば十分だと考えていた。
 靴底に仕込んであるナイフを確認した後、カウンター席へ戻ると、店員がコーヒーを運んできた。カップへ視線を落とし、黒い湖面に映る自分の瞳を見つめる。グリーンのカラーコンタクトレンズを入れたままだ。
 十二年前にアレッシオの父親であるマリオ・セレーニを殺した。アレッシオは当時十三歳だった。最初で最後になった接触は、彼が十八歳の時だ。バーで飲んでいたら、隣に来て、抱いて欲しいと頼まれた。彼が男娼でないことは、服を見ればすぐに分かった。自分を見張るようについている男達の存在も気になった。
 ディノはバーを後にして、アレッシオから逃れるように駅へ向かって歩いた。彼が追いかけてきて、一瞬、振り返って確認すると、男達も建物に隠れるようにして、こちらをうかがっていた。はっきりと断るために立ちどまり、拒否をつきつけると、彼は笑った。
 アレッシオは美しい笑みを浮かべながら名乗り、恋人になって欲しいと言った。
 ディノはアレッシオの闇の深さを考えた。父親を殺した相手に言う言葉ではなかった。仮にその父親が最低の人間であったとしても、彼の言動はおかしかった。接触を回避し続けてきたが、今は異なる感情がある。ディノは彼を消す決意をしていた。両手で頬を擦ったマリウスのことを思い出すと、その決意は強くなる。
 すっかりコーヒーが冷めた頃、ディノは左手側の窓から外を見た。駐車場に入ってくる車を見て、立ち上がる。テーブルに代金を置き、レストランを出た。車から降りてきたのはアレッシオではなかったが、一目見れば彼の使いだと分かる。
 ディノは促されて、後部座席へ座った。目隠しをされたが、抵抗はしない。セレーニ家の屋敷へ向かっていないことは、待ち合わせ場所のバイパス上からも明らかだった。おそらく彼の別荘の一つに連れていくのだろう。
 三十分ほどで、目的の場所へ到着し、車から降りた。腕を引かれ、目隠しをされたまま階段を上がる。目隠しを外されると、目の前にアレッシオが座っていた。ベッドに座っていた彼は、嬉しそうに笑った。
 男が背後で屈み、ディノの身体検査を始める。右足の拳銃はすぐに見つかった。
「靴に隠したナイフも」
 アレッシオの言葉に、男は靴も確認する。ディノは表情を隠した。ナイフは靴底以外にも隠し持っている。男が出ていった後、アレッシオはディノの目の前に立った。
 マリウスより少し高い。マリウスは赤みがかったブラウンの髪だが、彼は正当なブラウンの髪と瞳だった。どうしてマリウスと比べているのか、と考えたりしない。目の前の彼がいなければ、マリウスが傷つくことはなかった。そして、目の前の彼が消えれば、二度と傷つくこともない。
 考えはそれだけで十分だった。そして、理由もそれだけで十分だった。ディノはブラウンの瞳を見つめる。
「俺のものになって」
 アレッシオは美しい青年だ。彼がその美貌を使って、様々な利益をセレーニ家へもたらしていることは知っている。ディノは彼が近づき、手を伸ばして頬へ触れることを許した。彼はほほ笑み、頬からくちびるへ指先を移動させる。
「おまえのものにはならない」
 ナイフはベルトへ仕込んでいた。ディノはくちびるへ触れていたアレッシオの手首をつかむ。ナイフがなくても、彼の細い首を折ることは簡単に思えた。
「彼がいるから?」
 ディノがつかんでいる手に力を込めると、アレッシオは空いている手をポケットへ入れて、四角いリモコンを取り出した。彼が壁へリモコンを向けた後、スクリーンが下りてくる。
 男性器をくわえたマリウスの顔が映った。彼は泣きながら、必死に奉仕を続けていた。ディノはアレッシオの手を放し、スクリーンへ体を向ける。奉仕が終わった後、男は泣いているマリウスを鞭で打った。逃げる場所のないマリウスは頭を抱え、丸くなり、泣き続ける。やがて意識を失うと、今度はバスタブの中へ頭を突っ込まれた。もがきながら意識を取り戻したマリウスはパニック状態だ。
「正義による制裁っていうタイトルでもつけて、マスコミに送ったら、面白いよね。彼は異常な、許されざる、逃亡中の性犯罪者だから」


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