never let me go25 | ナノ





never let me go25

 フェデリコの言葉に立ちどまったディノは、冷静さを失ってはいなかった。ポケットから煙草を取り出し、火をつける。自分は冷静だと知らせるための動作だったが、ディノはブルーの瞳に浮かんだ狼狽を見逃さなかった。
「何だ?」
 ソットマーレにいると聞いた時から、マリウスがどういう目にあっているかは理解している。彼の姿を見ても、動じない自信はある。
「本当に、平気か?」
 その自信を確認するかのように、フェデリコが聞いた。ディノはすぐに頷いた。彼の意図が分からない。彼はいつもの調子ではなく、真面目な口調で続けた。
「長い付き合いの中で、おまえが誰かを案じるところを初めて見た。俺に情報を探らせるほど、おまえの心を動かした相手だ。その相手が死を望むほどの拷問を受けたあげく、精神を壊していたとしても、それでも、平気か?」
 ディノはやはり、すぐに頷いた。
「俺は平気だ。でも、マリウスに触れた奴らは平気じゃないだろうな」
 灰皿へ煙草を押しつけ、火を消したディノはフェデリコをまっすぐに見返した。
「そういうのを、手に入れてるのか?」
 フェデリコは分からないふりをした。
「俺も行く。映像データ、あとで確認するから」
 処分するな、と続けると、フェデリコは溜息をついた。
 ディノは部屋を移動し、身分証の中から適当な一枚を選ぶ。平気か、と自分にもう一度、問いかけた。妹に死を選ばせたあの時より、自分は強くなっている。平気だと考えていた。そして、心の内でマリウスはきっと無事だと信じていた。

 足元を照らす照明はまっすぐに地下へ続いていた。ディノはダークレッドの壁へ触れた。フェデリコの反対を押しきる形で、ディノは彼の側近であるダニエルを連れてソットマーレへ入った。ダニエルはすでに話をつけていたらしく、バーカウンターの中にいた男へ話しかけると、地下へと通された。
 大げさな音が響いていた表の部分とは異なり、地下にある会員制のバーは静かだった。そこでもダニエルが交渉役になる。彼は髪を暗く染めていた。いつもメガネをかけていたが、今日はアンバーの瞳を隠すようなダークブラウンのカラーコンタクトもつけていた。
 ディノは神経を集中させ、客と店の人間をより分けた。客のふりをした組織の連中が混ざっている。撃ち合いにはならないだろうと予想されたが、念のために持参した左の内腿へ装着したグロック社製の小銃と革靴の底に仕込んだナイフが見つかることはなかった。
 ダニエルとは逆にディノは髪も瞳もライトに変えていた。ダークブルーのトレンチコートはボディチェックの際に前を開けたままにしており、右のポケットから携帯電話を取り出す。その仕草に反応する客を見分け、ディノはくちびるを軽くなめた。
 携帯電話でメールチェックのふりをして、ダニエルの後へ続く。個室へ通された後、座り心地の良いソファへかけた。個室には入ってきた扉のほかに、もう一枚扉があった。
「どういうものがお好みですか?」
 先ほどダニエルと話をしていた店員が、デジタルカタログのような画面をこちらへ向けた。そこには商品が並んでいる。ディノは画面へ触れず、あらかじめ決めていた言葉を告げた。
「上等なものはいらない。殺してもいい、壊れたもので構わない」
 店員は心得たとばかりに頷き、奥の扉を案内する。構造からすると、おそらく地下二階か三階にあたるその場所は、意外なことに明るいところだった。個室が並ぶ廊下を抜けた先から悲鳴と泣き声が聞こえてくる。
 ダニエルが一度、こちらを見つめたが、ディノは無視をして歩き続けた。店員が立ちどまったのは、レストルームと書かれた扉の前だ。スイングドアは中をのぞけるようになっており、ちょうど二人の客が三人の青年をいたぶっていた。
 ディノは中へ入らず、ほかはあるか、と店員へ尋ねた。店員はさらへ奥へと進み、薄暗い部屋のほうを示した。明るい個室が並んだ場所とは異なり、格子で囲まれた部屋には、二人の青年が体を横たえていた。


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