never let me go24 | ナノ





never let me go24

 ソファに座り煙草を吸い始めたディノは、窓越しにぼんやりと夜明けの空を見つめた。請け負っていた仕事はすべて終わらせていた。マリウスと出会った時期の案件には期日があり、間にもう一件、期日が決められていた案件をこなした。
 いつもなら、月に一件は請け負う。だが、先ほどの電話も含めて、今日までに依頼された仕事はすべて断っていた。一服の後、キッチンへ入り、冷蔵庫を開けた。ビールとチーズしかなかった。
 ディノはマリウスの部屋にあった冷蔵庫を思い出す。彼の冷蔵庫は、野菜とタッパーとキャラクターもののヨーグルトであふれていた。彼に子供がいると勘違いするのは当然のことだ。
 甘いから好きなのか、と尋ねると、マリウスは、小さく首を横に振っていた。
「……父が、こういうものを買うことを許してくれなかったから、大人になったら、絶対買おうって決めてたんです」
 あの時は厳しい家庭で育ったのだと思った。ディノは静かに目を閉じる。日銭を持って、妹の手を引き、スーパーへ行くと、彼女もキャラクターもののヨーグルトやゼリーを手にしていた。
 これだけでいいから、明日はどこにも行かないで、と毎日のように言われた。妹は幼く、寂しいのだと思っていた。ディノは父親から暴力を振るわれ、その様子を見て、泣き出す彼女を見ながら、自分がいないほうが彼女のためだと考えていた。
 目を開けたディノは広がる痛みに胸を押さえた。妹のことも過去も、今までずっと忘れるようにして生きてきた。マリウスは妹を連想させる。彼も彼女のように死んだら、自分はまた狂うだろうかと考え、小さく息を吐いた。
 今は力を手に入れた。父親を殺した時のように、場当たりな行動はしない。マリウスを追いつめるものすべてを、確実に取り除く自信があった。
 ディノはそこまで考えて、自分にとってのマリウスは、弟のようなものかと自分自身に問いかけた。答が出る前に、携帯電話が鳴り始めた。

 ピネッリ家の屋敷へ行くと言ったディノを制して、フェデリコが来たのは、明け方の電話から数時間後だった。部下を二人だけ連れて現れた彼にコーヒーを出すと、彼はゆっくりと一口飲んだ。
 マリウスの居場所が分かった、と告げられた時、ディノはすぐにでも聞きたかったが、フェデリコはすべてを会ってから話すと言うだけだった。生死だけでも問おうとして、結局、尋ねることはできなかった。
「ソットマーレだ」
 前置きもなく告げられた店名に、ディノは最悪の事態を想定し、静かに受け入れた。ソットマーレがどこの援助を受けているか、今、マリウスがどういう状態にあるのか、ディノはすぐに理解した。先に否定して欲しくて、「殺されたか?」、と口にする。フェデリコは、首を横に振った。だが、それは否定ではなく、生死は分からないという意味だ。
「少なくとも五日前は生きていたとしか言えない」
 情報を手に入れたのは昨晩だと続いた。フェデリコの話すソットマーレ内部の話を聞きながら、ディノはテーブルに置いてあった薬莢へ手を伸ばした。
 この薬莢は十二年前のものだ。ディノは暗視式スコープから当時のセレーニ家当主だったマリオ・セレーニに狙いをつけ、彼の頭を撃ち抜いた。彼は屋敷の二階にある寝室で無防備な体をさらし、ベッドへひざを乗せたところだった。
 防弾ガラスを貫通した強力な弾頭が彼の頭を破裂させたところまで確認した時、ディノはスコープの端に映った人影を見た。あの時、顔は分からなかったが、後からベッドの上で狼狽していたのは、マリオの息子アレッシオ・セレーニだと知った。
 どうして今まで思い出さなかったのか、ディノは己の鈍さに呆れた。アレッシオ・セレーニもまた同じだった。幼かった次期当主の代わりに、彼の叔父がその座に着いたが、残虐さを増した彼はセレーニ家の影の支配者になりつつある。
 アレッシオは何度もディノと接触を持とうとしてきた。最初の接触以降、回避し続けたことには当然、理由があった。
 すぐにマリウスを助けに行かなければならない。立ち上がったディノは身分証を隠してある部屋へ行こうとした。
「おまえは来るなよ」


23 25

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -