never let me go23 | ナノ





never let me go23

「何だ? 暗い顔して」
 フェデリコはラビオリを口へ運ぶ。ディノは首を横に振り、同じようにラビオリを食べた。それはとてもおいしいが、舌が求めていたのは別の味だった。
「俺に……」
 ディノはフォークを置いて、ワイングラスへ手を伸ばした。もし、と仮定することじたいが間違いだと考えた。失踪からもう二週間も経つ。また手遅れになる、と感じた瞬間、ディノはフェデリコに言った。
「俺に恨みを抱いてる連中は、大勢いるよな」
 フェデリコの表情はすぐに読み取れた。今さら何を言っているのか、と呆れている。だが、彼は思い直したようで、テーブルに左手を置いた。
「何があった?」
 フェデリコの低い声は安心感を抱かせる。昔から彼は、頼れる兄のような存在だった。依存しないのは、彼が互いの関係に絶妙な距離を置いているからかもしれない。
 ディノはフェデリコが怒り狂った夜のことを一瞬だけ思い出し、それからすぐにその記憶を閉じ込めた。彼がそのことを忘れたふりをするからだ。忘れたふりをして、いまだに冗談のように手を出してくる。
「あの人が、哲学的な物言いをしてたのは知ってるだろう?」
 ディノは苦笑しながら、ポケットに入れていた薬莢を取り出し、フェデリコへ渡した。
「失いたくなければ、最初から大事なものだと定義するなって言ってた」
 フェデリコは薬莢を顔へ近づけたり、離したりした。
「何だよ、俺の存在は大事だろ」
 軽口をたたくように言って、フェデリコは笑った。
「十年以上前のF社製」
 鑑定を終えたフェデリコは、薬莢をこちらへ投げた。ディノは右手でつかみ、親指と人差指の間で回転させる。
「ホテルに届けられた」
 ディノ自身が、自分が狙われている、と恐れるわけがない。フェデリコはほほ笑み、「俺のことなら心配いらない」、と言った。
「するわけないだろう」
 目に映る護衛の数だけで、標的にするには手ごわい相手だ。フェデリコはかすかに驚きの表情を見せたが、すぐに隠した。話の流れから、ほかに大事なものがいると理解したようだ。
 正直なところ、ディノにはまだマリウスが自分にとってどういう存在なのか分からない。大事なもの、と定義していないが、自分の住む世界に巻き込まれたであろう彼を放っておくことはできなかった。
「名前は?」
 ディノがマリウスの名を口にすると、フェデリコは彼を知っていた。
「新聞でちらっと読んだな……」
 思案顔のフェデリコは、扉のそばにいた部下を一人呼び、指示を出した。
「だけど、本当に関係してると思うのか?」
 関係していないことを確認したい、と言うと、フェデリコは頷いた。それから、彼は少しの間、考える仕草を見せ、「深入りしてほしくない相手だな」、と独白した。彼の杞憂はよく理解できる。マリウスは妹の境遇と似ていた。異なるのは、彼は生きて、彼女は死んだという点だけだ。
「信頼できる情報屋に依頼した」
「額は?」
 フェデリコはブルーの瞳を輝かせて言う。
「情報の報酬は情報だが、俺が代わりに払うから、おまえは俺に抱かせろ」
 マリウスのことではない。フェデリコはいつもこうして、冗談の中に真意を隠す。ディノは鼻で笑い、「おまえはへただから嫌だ」、と返した。指先でもてあそんでいた薬莢がテーブルへ落ちる。テーブルの上を転がり、床へ落ちる前に、ディノはそれをポケットへ入れた。


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