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meteor18

 週末はたいていアランの家で過ごすが、彼は時々、由貴をレストランへ連れていく。今夜はロト市内でも有名なイタリアンレストランに予約を入れたと聞いていた。さすがにカーゴパンツやジーンズでは入店できないと言われ、由貴はあらかじめスーツを着た。チャコールグレイのズボンとごく普通のホワイトシャツだ。
 だが、アランは由貴の衣服をチェックすると、無言で車に押し込み、市内とは反対方向にあるエダへ向けて発進させる。
「そんな服しか持ってないのか?」
 由貴は頷く。
「まだ早いけど就職活動にって、何着か持参してます」
 アランが吹き出した。
「おまえ、俺が面接官だったら、即、落としてるぞ」
「え?」
「自分に合う色も知らない奴なんて、雇いたくない」
 アランは糸杉の前、沿道部分に車を停止させると、由貴に、「早く来い」、と声をかける。意図を察した由貴は、急ぎ足で追いかけながら言う。
「でも、あなたのサイズは僕には大きすぎます」
 玄関ホールの明かりをつけると、アランは客室だと説明していた部屋の扉を開ける。
「靴は脱がなくていい」
 客室はアランの寝室の半分ほどの広さしかない。彼の寝室がまったく生活感のない雰囲気なのに対して、この部屋にはテレビにオーディオプレイヤー、パソコンといった電子機器、ベッドには彼に似つかわしくないウサギのぬいぐるみまで置いてある。壁は真ん中より少し上の部分に、四角い形のデザインが描かれていた。それはブルー系のグラデーションとなり、部屋の壁を一周している。
「あ、ゴミ箱」
「何?」
 グラデーションを追いかけて、視線を動かした先に見つけたゴミ箱に、由貴はつい日本語で独白した。
「ここにはゴミ箱があると思って」
 アランはちょっと首を傾げてから、鍵の掛かっているクローゼットを開く。由貴が疑問を口にする前に、彼は説明を始めた。
「うちで取り扱っているペットボトルから再生した繊維で作った衣服だ。低コストだがセンスは一流を武器に売り出し中。ほら、これ」
 ダークブラウンのズボンと淡いブルーのシャツを手渡される。
「濡れた水鳥の羽のように艶のある黒髪と黒曜石の瞳」
 アランはもう一枚、淡いピンクのシャツを手渡す。
「ヨシタカ、おまえを引き立たせるのは淡い色だ」
 アランがベッドに腰を落ち着ける。由貴が着替えるのを待っているようだ。クローゼットの横にあるスタンド付ミラーの前に立って、由貴は自分を見つめた。
 彼の言う通りだと思う。原色よりも、自分には淡い色のほうがよく似合う。しかも、ホワイトだと冷たくなる印象が、淡いカラーが入ることで緩和されていた。表情もずっと明るく見える。
「今夜はブルーがいい」
 後ろからアランが希望を伝えてくる。由貴は笑顔で頷いたが、同時に心底驚いていた。
 自分と付き合いが長いのは自分自身なのに、自分のことは何一つ知らない気にさせられる。
 それに、ズボンもシャツもまるで由貴の体を採寸して作ったかのようにピッタリだ。
「夜は冷えるから、これも着ていけ」
 渡されたニットのベストはクリーム色だ。それもまるで由貴の体格に合わせたかのようにフィットする。
「アラン」
 ニットを上から着て、由貴は彼の前に立つ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 由貴の手をアランが口元に持っていく。指先が震えているのに、彼はそのまま意地悪そうに笑って、指先を口に咥えた。それから、左手首に口づけをする。神聖な儀式のように、何度も何度も静脈の上にキスを落とす。

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