never let me go12 | ナノ





never let me go12

 どうして呼ばれたか分かるか、と園長から尋ねられ、マリウスは小さく頷いた。料理長がすかさず、「馬鹿げてますよ」、と言い放った。ニケのことを指しているなら、あまりにも語気が強い。マリウスはそう感じて、先を聞くために園長へ視線を向けた。視界の端には、こちらを見つめてくるニケの顔が見えた。
「マリウス、正直に答えてほしい。ニケと二人きりになったことは?」
「……あります」
 マリウスは次に聞かれることを予想して、エプロンを巻きつけた右拳を握った。
「寝たことは?」
 ありません、とすぐに答えるべきだった。マリウスはこちらを見つめるニケを見返した。恐ろしいと感じるほど澄んだ瞳が、試すように光っていた。マリウスはただ彼の瞳を見続けた。
「マリウス?」
 園長が名前を呼び、返答を促した。
「あ、ありません、そんなこと、してない」
 最後の言葉はかすれた。料理長が、「ほら」と言わんばかりに膝を叩いた。ニケの瞳を見ながら、どうして自分と寝たと嘘をついたのかと考えた。強要しているのは彼の隣の男ではないのか、そう思い、カルロへ視線を移すと、彼が口を開いた。
「やはり個別に話をしたほうがいい。彼の前じゃ、怯えて話せない」
 ニケはマリウスから視線をそらし、左手で助けを求めるようにカルロの服の裾をつかんだ。
「ちょっと待って、俺は、ニケと何もないです。何もしてません」
 慌てながら事実を言うと、カルロが苦笑した。
「本当に?」
 マリウスの頷きを見届けてから、カルロはニケの手を握り、静かに言った。
「ニケ、おまえが嘘をついているのか?」
 その問いかけに狼狽したのは、ニケではなくマリウスだった。彼の狂言を認めることが、彼を信じてやることなのかと自問した。だが、そうではない。彼の抱える問題を暴いてこそ、彼を救えるとマリウスは考えた。
「ニケは嘘をついていません。でも、強要してるのは俺じゃなく、あなただ」
 射るようにカルロを見た。彼は足を組み替え、堂々と園長達を見回した。
「ニケ、指差しして教えてくれないか、誰が行為を無理強いしたのか」
 まっすぐに伸びた指先を振り払ったのは、料理長だった。
「馬鹿げてる! マリウスですよ? 人となりは皆が知ってる。ニケ、くだらないことに彼を巻き込むな。カルロも妄言に付き合うなんておかしい」
 料理長がいなければ、自分はもっと窮地に立たされていたかもしれない。マリウスは心強い気持ちで料理長へ会釈した。ニケはカウンセラー付きになるだろうが、彼にとってはそのほうがいい。そうなれば、カルロとの接触が減るからだ。
 マリウスは随分と落ち着き、冷静にそう考えた。だが、顔を上げたニケが静かに放った言葉に、マリウスは大きく動揺した。
「初めては小学校に上がる前だって言ったよね。ベッドで待っているように言われたんだ」
 語りかけるような口調のニケは、くちびるを歪めた。
「それが愛だって信じて、変だと思っても、他の大人達には隠してた。変なことをしてるけど……」
 気持ちよかったから、と続いた言葉を聞いて、マリウスは両手で口を押さえた。エプロンの紐がだらりと垂れた。
「マリウス?」 
 料理長の声さえも遠くに感じた。ニケの言葉しか耳に入ってこなかった。


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