twilight番外編11 | ナノ





twilight 番外編11

 今日は遅くなる、と言われて、チトセは先に食事を済ませた。まだ明るい空を見て、裏庭の藤棚の下へ移動する。ベンチに座り、しばらくの間、ただぼんやりと紅茶を飲む。遠くから母親が子供を呼ぶ声が聞こえた。明るいとはいえ、もう十九時を過ぎており、少し肌寒い。
 チトセは掃き出し窓からリビングへ入り、ソファへ腰かけた。テーブルの上にあった雑誌を手にする。秋物のメンズファッション誌だ。ルカに似合いそうなジャケットを見つけて、チトセはそばにあったペンで丸をつける。
 主任になってから、ルカの帰りは遅くなった。チトセも週三日の厨房での仕事を続けているため、二人でゆっくりできるのは週末くらいだ。チトセは頬に当たる髪を耳へかけ、偶然抜けた髪の毛に視線を落とす。
 自分の耳に自分の笑い声が響く。
「もうこんなに歳なんだ……」
 昔は、四十歳になる自分を想像することなどできなかった。チトセは改めて部屋を見回す。写真立ての中の二人、夏の花で作ったしおり、半分ずつ使用している本棚、そして二人で選んできた家具、すべてに思い出がつまっていた。
 遅いな、と小さくささやいて、チトセはルカを感じられる場所へ移動する。ベッドへうつ伏せて目を閉じると、彼の香りがした。昨晩、彼がしてくれように、自分の手で性器へ触れてみる。彼の手の動きを真似ているうちに、チトセはまどろみ始めた。

 スズメの声が聞こえてくる。チトセは目を開けて、温もりを確認した。ルカがいつ帰って来たのか分からないものの、自分を抱き締めるように眠っている彼を見て、幸せな気分になる。
 抜け出そうとすると、ルカが起きた。
「……どこいく」
 まだ寝ぼけたままのルカは、右足をチトセの足に絡めてくる。チトセが苦笑すると、今度は額と髪にくちづけを始めた。
「俺、白髪が増えたよね」
 髪に何度もくちびるが触れてくる。ルカは、「俺も増えた」と言って、くちづけをやめた。
「昨日の」
 ルカは肘をつき、のぞき込むようにこちらを見つめる。
「昨日の、かわいかった。おまえ、俺の枕を抱き締めて、右手はこの中」
 この中、とルカが触れたのは、下着に隠されたチトセのペニスだった。チトセが恥ずかしさから頬を染めると、彼は嬉しそうに笑う。
「今日は早く帰るようにする」
 そう言いながら、ルカは体を引き寄せ、右手でゆっくりと愛撫を始めた。ついばむようなキスを受けて、チトセは一瞬だけ、時計を確認する。すぐに顔を寄せた彼が、今は二人だけの時間だ、と告げた。
 熱い手のひらが背中をなで、太股へと滑っていく。左手でシーツを握り、チトセは気づかいにあふれるルカの指先を感じた。こらえきれずに漏れていく声すべてを飲み込むように、優しいキスが降ってくる。
 こうして、二人の時間を重ねていくのだと実感した。歳を重ねるごとに、家具だけではなく、家中のいたるところに思い出をつめこんでいく。昨日の寂しさが消えるほど、たくさんの幸せな思い出が増えていく。
「ルカ」
 ありがとう、と言ったら、ルカは面食らった様子だったが、すぐに礼の真意を理解してほほ笑み、甘く優しい声で、「俺も愛してる」と返事をくれた。


番外編10

twilight top

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -