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meteor13

 ホワイトアスパラガスの時期が終わると、由貴の通る散歩道は、整えられた土が小山のようにどこまでも続いていた。
 アランはホフで購入したホワイトアスパラガスを、一度目はホワイトソース、二度目はパン粉をバターで炒めただけのシンプルなソースで調理して、トーマスと由貴の胃袋を満たした。
 来年もまた食べさせてやろう、と一年後の話をするアランに由貴は苦笑した。そんなに長く一緒にいられるか分からない。
 無心で歩いているつもりが、いつの間にか昔のことを思い出している。一人寂しかった日々はあんなに長く感じたのに、楽しい日々は一瞬で過ぎていく気がした。
 由貴はいつもなら右に曲がる道を左に進んだ。歩道とは言い難い道の右手にはトウモロコシ畑、左手には牧場が見える。この道は隣村に続く道だ。
 六月も中旬になれば、そろそろ試験の準備を始めなくてはならない。由貴はヴァイス大学への入学を漠然と考えていた。
 以前、世話になったゲルベ大学へ問い合わせたところ、戻って来るなら、外国人に課せられる語学試験は免除されると回答を得ていた。
 だが、ヴァイス大学には有名な翻訳コースがある。通訳か翻訳か、あるいはまったく違う方向へ進んで、現地の日系企業へ就職するか、由貴は進路に悩んでいた。
 不意に由貴は立ち止まる。
 ここを離れるのは寂しい。
 後ろを振り返ると、今住んでいる村の名前が入った黄色い道路標示が見える。まだたったの二ヶ月程度滞在している村に、ここまで強く思いを入れ込むことができるのは、今、行く先にいるアランの存在に他ならない。
 
 体の関係を始めてから、由貴はほとんどの週末をアランの家で過ごしている。二週間に一度、週末に帰省してくるシュッツ夫妻は、時々、由貴をロトに連れ出してくれたが、アランが面倒を見ていると知ると、それ以上は干渉しなくなった。若い子は若い子同士のほうが楽しいと思われているようだ。
 トーマスは兄と由貴との関係を薄々勘づいているようだが、そういったことは一切口にしなかった。
 金曜日の夜が待ち遠しい。
 仕事が終わると、アランはいつも迎えに来てくれる。
 今日はまだ水曜日で、この時間だと仕事へ行く前の支度をしている最中だろうと由貴は予想した。いつもなら平日に行ったりはしない。だが、今日は何となく彼を一目見たくなった。
 約三キロの道のりを歩くと、アランの住む村、エダに入る。そこから、森のある方角へ少し進んだところに、彼の家がある。
 糸杉の間からアランの車が見えた。まだいたことに安堵した由貴は、そのまま敷地内へ入ろうと歩みを進める。
 そこで違和感を覚えたのは、見慣れない自転車を見つけたからだ。鍵もかけていない自転車は、芝を傷めないようにと、レンガの敷き詰められた道の上に置かれていた。
 新品には見えないが、そんなに古くもない自転車は、どう見ても男性用で、由貴は玄関の扉が開く音に、慌てて敷地を出る。由貴は糸杉の間に身を隠して、中から出てくる人間を盗み見た。
 ダークブラウンの革製鞄を持ったアランが、車の鍵を開ける。彼は朝陽に眩しそうな表情を見せた。続いて、家の中から一人の青年が出てくる。ジーンズをはいた彼は今時の若者に見える。ブロンドの髪が朝陽に照らされてきらきらと輝いていた。
 友達かもしれない、と由貴は沸き起こった疑念を振り払うように考えた。だが、その彼がジーンズのポケットから鍵を取り出し、玄関を閉めているのを見た瞬間、疑念は確信へと変わる。

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