ひみつのひ番外編20 | ナノ





ひみつのひ 番外編20

 悠紀は慰める言葉を見つけられず、稔の肩をなでてから、清潔なタオルを取り出した。濡らしてから、稔の頬に当ててやる。心が痛んだ。高校の頃は、何があっても稔と智章は一緒にいるだろうと確信が持てた。だが、それは自分達の世界での話だ。歳を重ね、しがらみが増えれば増えるほど、社会や家族という世界での二人の関係は複雑になっていく。
「最低だ」 
 卑怯な手段を使う藤家に対しての言葉を、稔は泣きながら受け入れた。
「うん、おれ、さいてーなんだ。智章に、ぜんぶあきらめさせて、ぜんぶだめにした」
「違うよ、すがっちのことじゃなくて」
 稔はまぶたに当てていたタオルをずらす。赤くなった目がこちらを見た。
「藤の家のことだ。でもさ、藤はすがっちが思うようには、考えてないだろ? だから、一緒に日本へ帰ってきた」
 稔の目に涙が浮かぶ。きらきらとたたえた涙は、透明な滴となり、また頬を流れていった。
「智章、働いてるんだ。俺のために」
 確かに藤グループの長男が被雇用者というのは、おかしいかもしれない。だが、智章はそれが自分にとって好影響をもたらすと考えているだろうし、愛する稔のためなら多少の苦労はいとわないはずだ。
「愛されてるなぁ。全財産と引き換えてさ、今も一緒にいるんだから、自信持てよ」
 智章の独善的なところは好きになれないが、親友である稔を大切にしていることは認める。もし、とても大事な人ができたとしても、悠紀には智章のように堂々とまっすぐにその人を愛せるかは分からないからだ。
「悠紀」
 弱々しい声で名前を呼ばれ、悠紀はまだ涙を流している稔を見た。
「おれ、ともあきに、はなしてない」
 口元にタオルを当てて、稔は大きく息を吐いた。
「こわくて、いえない……ずっと、ともあきだけだったから、だから」
 嗚咽に消えた言葉に、悠紀は息を飲んだ。小さく震える稔に、今までの彼なら逆境の智章を応援しているだろうと思いいたる。稔には、はかり知れないほど深い罪悪感があり、その意識が智章と別れるという結果につながっている。
 悠紀は昔のように、稔のことを抱き締めた。
「話さないと」
「……できない」
 智章のことだから、彼はもうすべてを知っているかもしれない。悠紀はそう思ったものの、口には出さなかった。稔が落ち着くまで背中を軽くなでてやり、風呂をわかす。彼が寝つくまで待った後、悠紀は秀崇へ電話をかけた。

 駅前のカフェで待ち合わせた悠紀は、店内でも人目をひいている智章を見て、外へ出た。部屋までの道を歩きながら、どう切り出すか考えていると、彼のほうから口を開く。
「話した?」
「え?」
 智章はかすかに彼らしい笑みを見せた。
「誘拐された時に、まわされた話」
 稔から聞いていなければ、まわされた、と聞いてもすぐに意味を理解できなかったはずだ。だが、悠紀はすでに知っていたため、その言葉を聞いた瞬間、表情を変えた。それを見て、智章は一人で頷く。
「おまえには話すと思ったよ」
 一度、立ちどまった智章は、また歩き出す。

番外編19 番外編21

ひみつのひ top

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -