エウロパのうみ27/i | ナノ


エウロパのうみ27/i

 運んできてもらった昼食を終えた後、薬を飲んだ。
「時和」
 昨日から善は時和のことを呼び捨てるようになったが、彼は歳上であり、時和自身、違和感もないため、気にしていない。
「はい」
 返事をすると、善は、「お母さんが来たよ」とほほ笑む。まさか母親がここへ来るとは思っておらず、時和は慌てて背筋を伸ばした。
「こちらです」
 善が母親を寝室へ通す。曜日の間隔はなかったものの、彼女が心配して休みを取ったのは考えるまでもない。年始のシフトを変えるのは難しいが、七日も過ぎれば交代してもらいやすいだろう。
「時和、よかった。インフルエンザだから、もっとかかると思ったけど、もう顔色もいいわね」
 母親は安堵し、「いまさらだけど、あけましておめでとう」と笑う。時和もつられて笑った。扉のところにいた善は、いつの間にか姿を消していた。年末から異常で非日常的な出来事を体験したせいか、母親と話した時和はとても穏やかな気持ちになることができた。
「村本さん、すごく素敵な人ね」
 母親は二人だけしかいないことを確認してから、ささやくような小さい声で言った。軽く頷くと、「彼は好きな人、それとも好きでいてくれる人?」と続く。驚いて、彼女を見つめたら、彼女は頭をぽんぽんと叩く。
「知ってるから隠さなくていいわ。最初はびっくりしたけど……あなたの父親みたいに、あなたが女に奪われることはないんだって思うと、ほっとした部分もあるのよ」
 時和は悲しげな瞳をする母親に、何と返していいのか分からず、ただ重なった手を見た。
「前にも言った通り、ずっと私と暮らす必要はないからね。こんなすごいところ、むしろ私が住みたいくらいだわ。でも、住んだら、あの狭い団地のほうがよかったって言っちゃいそうだけど」
 冗談交じりに言って、彼女は笑った。
「あ、携帯電話、見つかったの?」
「え、あ、えーと、まだ」
「そう、あんまり見つからないなら、新規で契約するしかないわね」
「う、うん、そうだね」
 時和は何とか、「もう少しよくなったら、帰るから」と告げた。
 天井を見上げ、毛布をつかみ、携帯電話のことを考える。善がどんなふうに対処しているのか分からない。あの時、自分が口走っていた言葉を思い出し、時和は瞳をうるませた。あれは薬のせいで、望んだことではない。だが、もし明達が見ていたら、どう思われるだろう。
「時和、大丈夫?」
 タクシーを呼び、母親を下まで送った善が、そっとベッドの端へ座った。毛布を握り締めている手に触れられて、時和は我に返る。
「住所を聞かれたから、いつか来ると思ってたけど、今日だって知らなかったんだ。でも、いいお母さんだね。気をつかう必要なんてないのに、カステラを持ってきてくださったよ」
 時和は上半身を起こして、座り直す。
「お母さんは、見てないですよね、あの、あの撮られてた……」
 母親が見ていないことは分かっていた。時和のページは友達として承認している相手とその相手の友達が閲覧できる。彼女はページの存在を知らない。時和が知りたいのは、明達が見たかどうかで、彼から連絡があったかどうかだった。



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