エウロパのうみ26 | ナノ





エウロパのうみ26

 端整な顔だちの善が心配から表情を歪ませて、こちらを見ていた。時和は涙を拭き、「知らない人達だった」と独白する。
「俺、知らない人達に……」
 言葉を続けられない時和の肩を、善が抱き寄せてくれる。録画されていた。時和はそのことに思いいたり、善の体を抱き締め返す。怖くて仕方なかった。その不安を言葉にできない。
「時和君さえよければ、しばらくここにいて」
 善は懇願するように言ったが、時和は体が動けば帰るつもりでいた。
「俺が不安なんだ。それに」
 言葉を選ぶようにして、善が続ける。
「一人でいるのは危ないから、アルバイトも、少し休んでいるほうがいい」
 また襲われると言われているようで、時和は善の瞳を見つめる。先に視線を外したのは彼のほうだ。
「善さん、俺の、携帯電話……ありますか?」
「調べさせてる」
 意味が分からず、視線を落としている善の言葉を待つ。善の手が時和の手を握った。
「映像が君のページからアップされてた」
 目の前が真っ暗になる。時和はくちびるを噛み締めたが、小さな嗚咽が漏れた。やはり、あの時、撮影されていた。
「た、たんじょうび、おれの」
 時和は震えながら、小さな声で告げる。
「誕生日が、パスワード」
「それは試したけど、パスワードを変えられてるみたいで、削除できない」
 うまく呼吸ができない。気づいた善が、体を横にしてくれる。
「大丈夫。俺が処理するから、時和君は休んで」
 時和は泣きながら、注射器で何か打たれたことや望んで抱かれたわけではないと繰り返した。善は分かっていると言ってくれたが、時和は目の前の善を通して、明達へ弁明していた。
「時和君」
 時和は泣きながら、謝り続ける。明達に嫌われてしまうと思った。時和のページで公開したものは、明達のページから閲覧できる。そして、明達が友達として承認している第三者も閲覧することができる。
「時和」
 善が右手を握り、額から頭をなでるように手を動かした。そして、浅い呼吸を繰り返すくちびるをふさぐ。苦しいと感じる瞬間に、くちびるは離れ、時和は大きく息を吸い込んだ。また彼のくちびるが重なる。重ねては離れ、そのたびに彼は、「時和」と名前を呼び、「分かってる。大丈夫」と繰り返した。
「き、きらいに、ならな、いで、むし、しないで」
 耳元で、「大好きだよ」とささやく声が聞こえる。
「初めて会った時から、無視なんてできない」
 絡む舌にこたえるように、時和も舌を動かした。親指の腹が目の下から頬をなでていく。そんなふうに優しく触れてもらえて、時和は深く安堵した。目を閉じたまま、規則的になった呼吸を深めた。
「俺のものだ」
 最後の言葉が聞こえず、時和は目を開いて、何と言ったのか確認しようと思う。だが、時和の意識はそのまま沈んでいった。


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