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meteor9

 アランの言った家というのは彼の家だった。この近辺では見慣れた、この土地独特の赤レンガを使った小さな一軒家の前に車が停まる。
「あなたの家?」
 等間隔に植えられている糸杉の間から、青い芝が見える。由貴が玄関前にある花のプランターに見入っていると、アランが中に入るように促した。玄関扉の前は五段からなる階段になっており、その一段一段にプランターが置かれている。
「実家ほど大きくないが、住みやすくて気に入ってる」
 アランがスリッパを由貴の足元へと差し出す。
「ありがとう」
 玄関から中へ入ると、すぐにリビングが見えた。平屋建てだが、中は正面から見たよりも広い。
「そこが空室というか客室で、リビングの隣が寝室。その隣にバスルーム。ここがキッチン」
 由貴を促し、アランはまず左手にあるキッチンへ案内する。
 今朝、読んだままと思われる新聞が小さなテーブルの上に置かれていた。その横にはパンくずの乗ったランチョンマットと空のコーヒーカップがある。
 由貴はそれを見て安堵してしまう自分に苦笑した。恋人候補でもないのに、アランに特定の人間がいるのかいないのか、チェックを入れている。そういう自分に気づいたからだ。
「ビールでいいか?」
 由貴が頷くと、アランはビンビールを開けて、そのまま一本を手渡す。
「乾杯」
 由貴は一口飲んでから、もう一度キッチンを見渡す。窓に飾られたレースがクマの模様を描いていて可愛い。思わず笑みがこぼれる。
「あぁ、それ。それはママが持ってきて、勝手に取り付けていったんだ」
 もう半分以上飲み干しているアランは、もう一本、ビールを冷蔵庫から取り出すと、リビングへと移動する。由貴もそれに続いた。
 リビングには赤い大きなソファが置いてあった。よく観察すると、白と黒と赤で統一された部屋だ。
 由貴はそっとソファの端に座る。
 アランはガラステーブルの上にビールを置き、三分の一ほど下りていたシャッターを完全に下ろした。スタンド式のシェードランプをつけると、部屋は温かい雰囲気になる。
 由貴の熱を感じたいとでも言うように、アランは詰めて座る。由貴は彼の腕の中に抱き込まれた。緊張を隠すようにビールを飲むと、彼がその手からビールを奪う。
「冷たい手だ」
 由貴は自分の指先に絡まる長い指を見た。視線を上げると、そこにはアランの瞳がある。
「アラン、あの、僕は、初めてじゃないから」
 今までにも何度か、幼く見える外見のせいで、初めてだと間違われて落胆されたことがある。その落胆を見せまいとした相手もいたが、由貴の目にはいつも読み取れた。アランも落胆するだろうか。由貴は目の前にいる彼を凝視する。
 だが、アランは小さく笑っただけだ。
「俺達にとっては今日が初めてだろう?」
 アランの手がそっと背中にまわり込む。由貴は呆けたまま、彼に抱え上げられた。クリーム色のスリッパが音を立てて落下する。 
 由貴は、別に見惚れていたわけではないし、彼の余裕に圧倒されたわけでもない。ただ、彼の言葉に、その気の利いた切り返しに感心していた。きっと、彼は慣れている。由貴はそう思った。
 寝室にはセミダブルのベッドとリビングにあったガラステーブルと同じデザインのサイドテーブル、そして鏡張りの大きなクローゼット以外、何もなかった。アランは由貴をベッドへ寝かせると、サイドテーブルの上にある卓上ランプをつける。

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