わかばのころ 番外編18/i | ナノ


わかばのころ 番外編18/i

 道の駅の駐車場へ車を停めた若葉は、積んでいた菓子パンや惣菜パンの入ったケースを持ち上げ、直売所の中へ運ぶ。馴染みのスタッフや客にあいさつをして、担当しているコーナーへそれらを並べた。
 農協に就職した若葉は、五年ほど前から道の駅の運営を任されている。運営スタッフの中では一番若いため、重労働を率先して引き受けていた。直売所は十八時閉店だが、後片づけと明日の準備をすれば、家へ帰るのは当然十九時を過ぎる。
 定時で上がる潮はすでにハーフパンツにランニングシャツという格好で、家の前に造った花壇の様子を見ていた。ムウが他界してから、犬小屋のあった場所を造り替えた。
「おかえり」
「ただいま」
 汚れている軍手を持ち、縁側から家の中へ入ると、編み物をしていた母親が手を止める。父親は座椅子に座り、テレビを見ているようだが、実際には目を閉じていた。
「ただいま」
 立ち上がろうとした母親を制止して、若葉は汚れ物を洗濯機へ放り込んだ。手を洗ってから、台所に用意してあった夕食を自分で並べる。潮が冷蔵庫から冷えた瓶ビールを出してくれた。さらにメロンのリキュールも置かれる。
「お疲れ」
 グラスにはビールとメロンリキュールが注がれた。ビールだけだと苦いからだ。グラスを当てて乾杯した後、一口だけ飲む。冷えたビールとテーブルに並ぶ食事に笑みをこぼした。
「冷蔵庫にわさび漬け、あるからね」
 母親が潮にそう言うと、彼は木箱を掲げた。
「あら、もう出してたのね」
「いただきます」
 だしの中へ大根おろしを入れ、天ぷらを頬張る。地元で採れた旬の野菜はおいしく、若葉は話もせずに夢中で食べた。
「あ、お弁当箱」
「どうした?」
「車に置き忘れた」
 潮が笑い、「取ってくるから、食べてろ」と立ち上がる。居眠りをしていた父親が、大きく腕を伸ばした。
「若葉、おかえり。お父さんももらっていいか?」
「うん」
 父親が差し出した空のグラスへ、若葉はビールを注いだ。
「これも入れる?」
 リキュールの瓶をつかむ。
「いや、それはいい」
「甘くなっておいしいよ」
「ビールは苦味がいいんだよ」
 父親は苦笑いを浮かべ、テレビの前へと戻る。弁当箱を流しへ持っていってくれた潮が、二本目の瓶ビールをテーブルの上へ置く。
「明日、休みだろ?」
「うん。明後日は出るけど」
 直売所は水曜が休みだ。若葉の休日も水曜と土曜か日曜のどちらかになる。イベントがある時は手伝いに行くため、潮と過ごす時間が減ることもあった。大学時代が懐かしい。あの頃は翌日のことも気にせず、何でも好きなだけできたと思う。だが、今は社会人として節度を保たなければならない。
 膨らんだ腹を擦ると、潮が笑った。
「満足か?」
「うん。お母さん、ごちそうさま!」
 後片づけをした後、若葉はいつも通りの時間に風呂へ入った。きしむ階段を上がり、部屋の中のベッドへ寝転がる。こうしてすぐに眠るのは良くないと分かっていても、若葉のまぶたは重い。


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