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meteor8

 アランに促され、由貴は水際から離れる。砂利の砂丘の上に、彼は大胆に寝転んだ。
「見てみろ。ここから見る星が一番、綺麗だから」
 由貴は尻をつき、ゆっくりと仰向けになる。いつもこの国の空は高いと思っていた。だが、今、目の前に輝く星は近い。由貴はプラネタリウムにいるような気分になる。思わず、手を空へと伸ばした。
「八月が一番、流れ星の多い月だと聞いたことがある。二月の夜はもっと低い位置に星が見えるんだ」
 深い藍色の空に数え切れない星がある。由貴はアランの心地良い声を聞きながら、夢心地で目を閉じる。夕刻の悩みを少しだけ忘れられる気がした。
「アラン」
 由貴は視線を左へと移し、同じように星を見上げている彼に呼びかける。
「ありがとう、ここへ連れて来てくれて」
 月明かりの中で、アランの瞳がきらきらと光っている。そのヘーゼルナッツ色の目が細められ、口元に笑みが浮かんだ。
「元気、出たか?」
「え?」
 聞き返すように首を傾げてから、由貴はアランの言葉の意味に気づく。ホームシックになっていると思われたのだ。
「日本食が恋しくなったら、好きに作っていい。トーマスのために作り置きする必要はないんだからな。何か必要ならアジアショップが街のほうにあるから、連れていってやる」
 そうじゃない、と言いかけて、由貴はやめた。アランの好意を台無しにする必要はない。自分が落ち込んでいると思い、こうして星を見せに連れて来てくれた。
 由貴はそう思うと改めてアランという人物に魅かれていくことに気づいた。どこかで歯止めをかけようとする自分を感じる。これ以上は危ないと、彼を見つめる視線を外す。
 だが、その仕草はアランには合図と映ったようだ。上半身を起こして、彼が急激に顔を寄せる。  
 由貴は混乱していた。まさか、彼も同じように自分を気にかけているという、そんな展開を予想しているわけではない。これまでと同じように、二度三度と寝れば自然に消えていく関係になるだろう。結局、自分はどこにいても同じだ。
 それでも、今この瞬間はいい、と由貴は思った。複雑に考えて傷つくよりは、物分かりのいいふりをして、傷に気づかないほうがいい。
「キスしたい」
 アランの肩越しに星が輝いている。かすれたその声は由貴をひどく欲情させた。
「あなたになら、何をされてもいい」
 ヘーゼルナッツ色の瞳が燃えるのを、由貴は見た。きっと自分の瞳も欲情の色に染まっているに違いない。
 由貴がそんなことを考えている時、アランの顔が近づいた。目を閉じると、くちびるに彼を感じる。柔らかく温かい感触と、彼とキスをしているという意識が由貴をもっと熱くする。一瞬の休憩に溜息を漏らせば、それがまた合図となって二人は浅く深くキスを交わす。
 久しぶりの熱は冷めることを知らず、由貴は上昇していく気持ちを落ち着かせることができない。
 だから、アランが離れようとした時、由貴は思わずその袖をつかんだ。由貴が見上げると、彼が苦笑する。彼は立ち上がり、ひざや手の平についた砂を落とした。それから、由貴に手を伸べる。
「うちへ行こう」
 その瞳に滲む欲情を見て、由貴はアランも同じように歯止めの利かない熱を持て余していると確信した。立ち上がった時、子どもにするように額へキスを受けて、由貴は声を出して笑う。
「ヨシタカ」
 ぐいと引き寄せられて、由貴はアランの肩越しから湖面を見た。月の光が小波を、星の輝きに見せる。まるで地上にも星があるかのようだ。
「君はなんて美しいんだろう」
 アランの言葉は特に由貴へ聞かせるための言葉というより、自然に漏れた溜息のように聞こえた。

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