walou番外編15/i | ナノ


walou番外編15/i

「ラウリへの侮辱は、今後一切許さない」
 エリクには幼い頃から威厳があった。彼の冷たい声音に、彼女達は震えながら、謝罪の言葉を告げてくる。ラウリは彼の腕の中で、ただ泣いていた。最初は、自分のために怒る彼を見て、嬉しかった。彼がイハブ達のように、自分を守ってくれる存在だと分かっていたが、自分だけを特別扱いしてくれるように感じた。
 それから、自分の存在を認めてくれた。亡くなった母親からも、ちゃんと愛されていたのだと教えてくれた。好きな人から無条件に守られることが幸せだった。だから、彼がいつか伴侶と生きていくことも受け入れなければならない。彼だって、ラウリから祝福されたいと思っているはずだ。
「ラウリ」
 再び二人だけになった。ラウリが顔を上げると、エリクは袖口で、軽く涙を拭いてくれる。
「いつからあんなこと……もう二度と言わせないからな」
 ラウリが何とか、「ありがとう」と口にすると、エリクはようやく表情を変えた。そのまま抱かれて、森の奥へ移動する。自生する花々が緑の絨毯の上で揺れていた。
「きれい……」
「そうだろう。ほら、ここに」
 湿原の近くのようだが、この周辺は土が乾いており、エリクは布を敷いていた。彼と同じように寝転ぶと、風に揺れる花々が見える。空の青と色とりどりの花々の対比は鮮やかで、美しい。
 涙はすっかり乾いて、ラウリはしばらく言葉もなく空を見つめ続けた。左手を握ってくるエリクの手を握り返す。
「エリク、伴侶の式、いつするの?」
 本人にその気がなくても、十六歳になった彼を周囲が放っておくはずがない。
「三年後だろう?」
 ラウリは上半身を起こして、手をつないだままのエリクを見た。具体的な数字が出るということは、彼にはすでに伴侶と決めている人がいて、その相手と肉体関係があるということになる。揺れる花々がぼやけていく。くちびるへのくちづけは、ただの親愛の印だった。
「何だ? 感激して泣いてる?」
 エリクも起き上がり、ラウリの体を足の間へ移動させ、うしろから抱き締めてくる。
「僕、しゅ、祝福できるよ」
「え、あぁ、皆も祝福してくれるだろ」
 醜い嫉妬心に負け、ラウリは、「誰?」と尋ねた。
「エリクの伴侶、誰?」
 その時、ラウリはつながれていた手しか見ていなかった。だから、エリクがひどく驚き、その後、相好を崩したことを知らない。突然の笑い声に、涙が止まった。
「ラウリ、君に決まってるだろう?」
「え?」
「君が十六になるのを待ってるんだ」
 ラウリはエリクと向かい合う。彼は頬へ触れ、くちづけをくれた。
「俺の一族は皆、俺が君以外を伴侶にしないと知ってる。君の親も。首長を血筋で決めるのは俺の代で終わる。でも、それでいいんだ。歴史と伝統を重んじるあのイゾヴァ達だって、世襲制じゃない」
 本当に、僕? と独り言のように小さな声で繰り返した。
「そうだ。俺の伴侶はラウリ、君だけだ」
 エリクの指先が頬をなで、髪をすいていった。もう一度、くちびるを重ねる。
 ずっと待ってた、とささやく声が聞こえた。エリクの声のようで、彼の声ではない。彼の手が肩から腰へ回った。愛の言葉をささやかれ、ラウリはその言葉へこたえる。まぶしい光がまぶたの奥で飛び散った。思わず目を開くと、愛しい人が笑みを浮かべて、こちらを見ていた。


番外編14 番外編16(おまけ)

walou top

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -