walou番外編13 | ナノ





walou番外編13

 ラズベリーを二つ、三つと口へ放り込み、ラウリは目的の薬草を摘んだ。自生している薬草を採りすぎてはいけない、と教えられてきたため、必要な分だけ摘み取る。数年前から量産できる薬草は庭でも育てていた。
 ラウリは薬草の入った袋とラズベリーの入った碗を持って立ち上がる。オストヴァルドの深い森は、幼い頃から歩き慣れた場所だ。少し行けば、すぐに温泉に出る。朝から温泉に入る村人もいるが、今日は誰もいなかった。ラウリは足だけ休めようと思い、荷物を置いて、岩場へ腰を下ろした。
 熱い湯の中に足を入れ、ふくらはぎをもむ。右ひざの擦り傷は、この間、転んだ時に負ったものだ。医師であるイハブは、ラウリの父親の一人で、すぐに消毒して薬草を当ててくれた。湯から足を上げ、ラウリは家に向かって歩き出す。
 夏の陽射しはそれなりに強いが、日影で受ける風は心地良いものだ。村人達へあいさつをしながら、ラウリは家である診療所へ入った。
「おかえり」
 作業台に向かって書き物をしていたイハブが、手を止める。彼の視線がラズベリーへ落とされ、ラウリは笑みを浮かべた。ラズベリーパイは彼の好物だ。
「ただいま。これ、採ってきたよ」
 もう一人の父親であるエクに頼まれた薬草だったが、行き着く先はイハブのため、彼に薬草の入った袋を渡す。
「ありがとう。あぁ、エリクが来てる」
「ほんと?」
 仕切り布の向こうには、診療所と家の連絡通路になっている扉がある。ラウリはイハブの返事を待たず、奥へ進み、台所にいるエクとエリクを見つけた。
「ただいま」
 ラズベリーの入った碗を置き、ラウリは二人へ言葉をかける。エクが柔らかな笑みを浮かべた。ラウリにとっては父親だが、彼は見惚れてしまうほど美しい容姿であり、イハブと同じく、とても穏やかな人間だった。
 エリクに抱き締めてもらい、頬にくちづけを受ける。彼はこの地方の人間にしては背が高く、狩猟の腕もオストヴァルドの中では一番であり、力比べでは誰にも負けたことがない。さらに首長の息子であり、幼い頃から複数の言語を学び、イハブからも多少の知識を習得しているとあれば、この村だけではなく、ヴァーツ地方全体で彼の伴侶になりたいと思う者は多いだろう。
「昼食の用意を手伝ってもらってたんだよ。もうすぐできるから、二人は休んでて」
 ラウリの部屋へ移動し、寝台に座った瞬間、エリクは待ちきれないとばかりに、くちづけを再開した。
「ラズベリーの味がするな」
 エリクはそう言って、鼻同士を擦り合わせるように顔を近づけ、もう一度、くちづけてくる。首長の息子である彼は、すでに十六になった。彼の祖父が亡くなってからは、特に忙しいようだが、いつも時間を作っては会いに来てくれる。
 目の下に出ている疲れを指先でなぞると、エリクは軽く目を閉じた。
「昔からそうだけど、君のそばにいると安らぐ」
 淡い空色の瞳に見つめられ、ラウリはうつむく。恥ずかしいから、という理由が半分と、残りの半分は負の感情だった。彼の服を握り、「あなたには僕だけだ」と言えたら、どんなにいいだろうと考える。
 うつむいたまま、エリクの体を抱き締める。彼もぎゅっと抱き締めてくれて、昼食の後は森を散歩しよう、と誘ってきた。たいては、またすぐにオストヴァルドへ戻るため、ラウリは一緒に過ごせる時間が嬉しくて、満面の笑みを彼へ向けた。

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