エウロパのうみ17 | ナノ





エウロパのうみ17

 検収を済ませた時和は、レジへ向かった客を追いかけて、カウンターの向こうへ駆け込む。釣りを渡した後、昨日と今日だけ取り扱っているクリスマスケーキへ視線を落としている客を見た。携帯電話を取り出し、ボタンを押し始める。買って帰るかどうか、相談しているのだろう。
 時和は新たに入って来た客に、あいさつをする。続けてもう一人、コートを着た男性が来店した。彼はまっすぐにこちらへ来る。
「善さん」
 働いている店までは教えていなかった。それに、正確には二十六日になったとはいえ、善が誰も連れずに深夜のコンビニエンスストアに来ることじたい、時和には驚くべきことだった。
「お疲れさま」
 ネクタイを締めたままということは、おそらく仕事だったと思われる。時和は笑みを浮かべ、彼にも同じ言葉を返した。
「お疲れさまです」
「最近、『ren』に来てないね」 
 忙しくて、と丁寧に言うと、善は小さく頷いた。
「今度の休みはいつ?」
「すみません」
 時和は善のうしろへ並んだ客の商品を受け取る。四号サイズのケーキボックスを袋へ入れて、プラスチック製のフォークを二つ付けた。
「いつも通り、木曜が休みです」
「会える?」
 善の好意は知っているだけに、時和はどう断ろうかと悩んだ。ウォークインで補充を済ませた大平が、好奇心にあふれた目で善を見る。
「ちょっと出るね」
 大平にそう言って、時和は善を外へ促した。立ち話をするには寒すぎるが、長話をするつもりはない。
「実は……付き合ってる人がいて、もう前みたいには……」
 最初は善を見上げていたものの、彼の瞳に映る自分が哀れで、しだいにうつむいてしまった。付き合っている、と言葉にしたら、事実ではない、と否定する自分がいる。明達は都合良く自分を利用している。それが分かっていても、会って、彼の相手をしてしまうのは、いつか彼が彼女と別れるかもしれないという希望を持っているからだ。
 そして、そういう希望を持つ自分を、時和はひどく恥じていた。人の不幸を願うしかない関係を続けるのは、精神的にも辛い。
「そうか。じゃあ、『ren』で年越しパーティーがあるから、来れそうなら、その彼も一緒に」
 善はコートのポケットからスマートキーを取り出す。
「仕事中にごめんね。寒いから、早く入って」
 時和は善の車を見送ってから、中へ入った。車に詳しい大平は、善の乗っていた外国車について語り始める。時和は適当に相槌を打ちながら、届いた商品を並べた。
 以前は体を動かすたびに違和感があったが、今はもう消えている。性交時の痛みにも慣れた。年越しパーティーには行けない。シフトはもう組まれているし、明達は初詣も彼女と行くだろう。


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