エウロパのうみ16 | ナノ





エウロパのうみ16

 結果としては、その姿勢でよかった。涙も悲鳴もシーツがすべて吸い込んでいく。時和は緩めろ、と言われるたびに、力を抜く努力をした。高校時代、自分へ笑いかけてくれた明達を思い出し、その思い出の延長で抱かれる自分を想像した。体の中心を突かれる衝撃を受けながら、右手を自分のペニスへ伸ばし、少しでも快感を得ようとする。
 うめくような苦しげな音と時和という自分の名前を繰り返す明達の声だけで、時和は痛みに耐えることができた。
「うわ……」
 ひときわ大きな圧迫感の後、明達が不安げな声を出す。振り返る気力もなく、ベッドに崩れながら、視線だけ向けた。彼のコンドームに付着している血を見て、時和はただ力なく笑う。
「ごめん、久しぶり、だったから」
 痛みから萎えてしまった時和のペニスには気づかず、明達は安堵の表情を浮かべた。
「びびった。そうだよな、生理なわけないもんな」
 ひりひりとした痛みに、時和は目を閉じる。
「なぁ、もう一回していい?」
 時和、と呼びかけられて、目を開く。痛みしかなかった。だが、何度もすれば、快感になるのだと信じ、時和は彼にアナルを向けた。

 携帯電話の音がうるさい。バイブレーションで揺れて、かちかちと音を立てている。時和が音のほうへ手を伸ばしたのと、「あ、杏里? ごめん」という言葉が聞こえたのは同時だった。
「悪かったって。寝過ごしただけだから、うん、すぐ行く」
 じゃあな、と電話を切った明達は、時和がたたんだ衣服を素早く身につけていく。
「あきたつ?」
 時和は体を起こそうとして、そのままベッドへ沈んだ。アナルだけではなく、全身が筋肉痛のようだ。
「時和、悪いけど、先に帰るな。また連絡するから」
 そのまま背を向けて出ていくように見えたが、明達は靴のつま先で床を軽く叩いた後、ベッドへ手をついた。頬と耳朶のあたりへキスを受ける。横になったまま、時和は彼が出ていった扉を見た。利用されただけだと思う自分と、初体験を好きな人とできたと考える自分がいる。
 時和は痛みをこらえて、シャワーを浴び、明達が忘れていった部屋の鍵を手にする。フロントで清算をして、外へ出ると、まぶしい太陽に照らされた。携帯電話を確認すると、善からのメールと明達からのメールがあった。時和は明達のメールを開く。
 そこには清算を忘れてしまったことに対する謝罪と、また会いたいという主旨の内容が書かれている。時和は一言、いいよ、と返す。彼のものになれた、という感情が何よりも勝る。その関係に名前など必要なかった。
 善からのメールは夕食への招待だった。時和は、断りの言葉を入れて送る。たとえ彼が好意を抱いてくれても、彼は遠い世界の人間だった。今度はいつ、明達と会えるのか分からない。時和は彼のためだけに時間を空けておきたかった。
 土曜の朝ということもあり、電車の中は空いている。時和は一度座ろうとしたが、痛みに耐えかねて、降車駅まで立ったままでいた。おそらく自転車にも乗れないだろう。目を閉じて、自分の名前を呼んでいた明達の声を思い出す。
 明達のページへアクセスした。三十分ほど前の更新で、友達と飲み過ぎた、と書いてある。時和はくちびるを噛み、友達でも恋人でも何でもいい、と涙を拭った。


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