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 十月までの間、由貴は田舎で大自然を満喫するのも悪くないと考え直した。小さな田舎のほうが外国人も少なく、一日中、この国の言葉漬けになるかもしれない。それに、本当は逃げ出したかった。自分が自分でいられる場所がいいと思った。
 由貴はこの国の国際空港行きのチケットを買い、ウェブ上で国際空港からロトまでのルートを調べた。
 語学教室の先生から教えてもらったアドレスへメールを送り、彼の知り合いへ四月から半年ほど世話になりたい旨を書いた。
 由貴は皆が大学を卒業し、社会人一年生となる中、自分の道を選んだ。その選択に迷いがまったくなかったわけではない。楽な道へ逃げたのかとも思う。だが、準備を整えると、新しい始まりが待ち遠しかった。

 国際空港駅から二時間半ほど遠距離線の電車に揺られた後、ローカル線へ乗り継ぐ。景色はだんだん緑一色になる。放し飼いにされている牛や羊の群れを見ながら、由貴は少し笑った。
 由貴が育った街は大都会ではないが、田舎でもない。昼は人々の喧騒、夜になれば星よりも街の明かりが目立つ中規模都市だ。留学時代は時々、仲間たちと一緒にクラブへ出向いたが、この田舎はそういう娯楽とは無縁に見えた。

 到着を知らせるアナウンスが入ると、ホームに電車が滑り込む。ホームではすでに何人かの出迎えが見えた。その中に今回世話になる語学教室の先生の友人がいるはずだ。
 由貴は無論、シュッツ氏の容姿を知らない。だが、彼のほうは由貴を簡単に見つけるだろう。こんな小さな地方都市の駅にアジア人はよく目立つ。
「ヨシ!」
 教室の先生と同じく、壮年男性をイメージしていた由貴は、シュッツ氏の姿に一瞬驚く。由貴の驚きを見抜いた彼は、手を差し出しながら微笑んだ。
「パパの代わりに車で来たんだ。俺はトーマス。はじめまして」
 あぁ、そうかと頷き、由貴も手を差し出す。
「ヨシ……タカだっけ? 長いから、ヨシって呼んでいいだろ? もう、そう呼んだけど」
「もちろん。留学時代の友達もそう呼んでたよ」
 由貴は階段の前でトランクケースを持とうとしたトーマスを制して、自分で持ち上げた。小さな駅にはエレベーターはなく、利用者たちはたった一ヶ所の階段を上り下りしていた。
 由貴はまだ知らないが、ロト駅の裏には無料駐車場がある。表通りは車の往来が激しいため、地元の人間はもっぱらこの裏の駐車場を使う。
 由貴はトランクケースとリュックサックをシルバーの車に積み込むと、促されるのを待って助手席へ座った。
「俺のじゃないから、気をつけて運転しないとね」
 トーマスが苦笑とともに発進する。
「日本からここまで飛行機でどれくらい?」
「直行便で十二、三時間かな。乗り換えあったら、もっと長くかかると思う」
 ヴィンにあるシュッツ家到着まで二十分ほど、由貴はトーマスに空港や機内での出来事を聞かせた。
 トーマスはシュッツ家の次男で自宅からそう遠くないガソリンスタンドで夜勤をしている。昼間は市民大学で英語を学んでいて、いつかアメリカへ行くのが夢だと語った。
 トーマスは年上に見えたが、実際には由貴より二つ年下の二十歳で、事実を知った彼は危うく急ブレーキをかけそうになるくらい驚いていた。
「アジア人てほんと幼く見えるなぁ」
 由貴はもう何千回も聞いた言葉に笑う。

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