walou22/i | ナノ


walou22/i

 薬草店の中には三人掛けの椅子と仕切りとなっている横長の作業台がある。作業台の向こうで、イハブはいつも薬を調合していた。エクが時々もらうクヴァッキーニは、彼が牛の新鮮な乳を手に入れた日だけ用意されていた。薬草店に揚げ菓子は不釣合いで、実際、彼は売り物にはしていなかった。
 イハブが作業台からこちら側へ出てきてくれることは、ほとんどない。だが、一度だけ、エクのほうへ歩み寄った日があった。雨上がりのぬかるみに足を取られ、転んでしまった日だ。右ひざを擦りむいてしまい、少し血が出ていたが、エクにとってはケガよりも泥で汚れた服で彼の前に立つことのほうが恥ずかしいと感じた。
 ケガを見つけたイハブは、薬を手にエクへ近づき、椅子へ座らせてくれた。そして、傷口をきれいに消毒し、薬を塗り、包帯を巻いてくれた。その手際のよさは、彼がハキームから学んでいる証拠だ。診療所にいる姿は見かけないものの、ほかの自由医師のところで学んでいる者達より、丁寧で、適切な処置だった。
 エクには医術の心得はないため、イハブの処置を評価することはできない。ただ、彼の指先がためらうことなく自分の傷口へ触れ、優しく包帯を巻くのを見つめるだけだった。足元にひざをついていた彼がこちらを見上げた時、エクはその黒い瞳に映る自分を見て、口を閉じた。
 高価な鏡に映る醜いものを見たような気持ちで、礼もそこそこに薬草店を出て行ってしまった。彼と自分では違いすぎる。だが、エクが悲しんだのは一瞬だけだ。屋敷に戻る道すがら、水の日に彼と会えるだけで満足だと思った。報われない思いを抱えるのではなく、ただ一目、彼を見るだけで幸せだと考えた。
「エク」
 イハブの声が聞こえる。彼は時おり、名前で呼びかけてくれた。胸に広がる思いは、今まで経験したことがないものだった。
「エク!」
 急激に浮上するような感覚に、エクは思いきり喘いだ。蝋燭の炎の揺らめきが、横一直線に伸び、泣きながら手を伸ばす。だが、縛られていた腕は自由が利かず、エクは口の中にあった液体を吐き出した。
 ぼやけた視界に、ザファルが見える。
「いきまくって意識を飛ばした上に、粗相するとは、いい覚悟だな」
 口内に残っている男の精液が、ゆっくりと落下する。エクはザファルが連れてきた男達に体をもてあそばれていた。アナルの痛みや限界まで味合わされたひりつく快感や肌に残る傷痕を見れば、エクの精神が正常な状態を保つのは難しいと分かるだろう。
 エクは許しを請い、謝り続けた。ペニスを拘束する鋼鉄製の筒はないものの、何度も擦られ続けたそこは、無残な様を見せている。ここへ来て、どれくらい経つのか分からないが、エクはザファルに教えられた通り、拒絶の言葉は吐かなかった。
 白い肌へ群がる男達は、はっきりとした意識のないエクを苦しめる。ザファル様、と舌足らずな声で主人を呼んだ。彼は聞こえないふりをして、上等な葉巻の香りを楽しんでいる。うしろから貫かれ、また意識が飛びそうになった。下半身へ集中する熱が留まり、エクに甘くしびれるような快感を与える。だが、その快感は毒であり、痛みでもある。
 エクは体をけいれんさせ、小さなペニスから薄い液体を流した。それが精液ではないことは明白であり、エクは、「申し訳ありません」と必死に紡いだ。肩まで伸びた金色の髪は、涙と体液でエクの頬に張りついている。男の精液で汚れた彼が、薄い緑の瞳をにじませ許しを請う姿は、男達が大金を払ってもいいと思わせるほど扇情的なものだった。
 ザファルが葉巻をくちびるへはさみ、利き手の指を動かす。控えていた男が、粗相をしたエクに仕置きするための道具を取り出した。
 初めてのことではない。それでも、恐怖が消えるわけもなく、エクは精を出しつくし、縮こまってしまったペニスが、薬の力で強制的にたち上がっていく様子を見た。赤く腫れている亀頭へ、細い茎が押し込まれる。その茎を抜かない限り、エクは自由に用を足すこともできなくなる。
 再び鋼鉄製の筒に包まれたペニスへ触れることもできないまま、エクは地下へと戻された。その日はエクの十五回目の誕生日だったが、時間の感覚を失ってしまったエクに分かるはずがなかった。目を閉じて眠ろうとする。次に起こされたら、またひどい仕打ちが待っている。
 疲労している体は重たく、擦りきれた精神は糸が切れてしまう寸前だった。


21 23

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -