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 宮殿の敷地内へ入ると、馬を引く守衛が二の宮まで案内した。エクは段差の低い階段を上がり、そこへ集められた意味も分からないまま、守衛達の指示に従う。大きな支柱の向こうに、ハキームの姿が見えた。
「おまえはこっち」
 すでに列をなしていたハキームのところではなく、エクは別の自由医師のほうへ並ばされる。ハキームの隣には、予想した通りイハブがいた。胸を締めつける感覚に、耐えきれずうつむく。こんな姿を見られたくなかった。
 エクの順番になると、ハキームよりやや若い医者は煙たそうな表情で外套をつまみ上げた。彼は直接触れることを避け、エクの体を一瞥して、軟膏を指差す。
「自分で塗れ。次」
 エクが彼の隣にあった軟膏の入っている包みを手にすると、守衛が奥へ進めと言った。奥には三の宮の支柱が見え、さらに奥にある建物の外観が見渡せる。二の宮の階段を下りた先に臨時の湯浴み場が設けてあった。
 そこではエクのような性奴隷が、使用人の手を借りて体を清潔にしている。エクも外套を脱ぐように言われた。ヴァイス以外の使用人もいたが、彼らは皆、エク達を軽視しているようだ。
 乱暴に湯をかけられ、髪から水滴が落ちる状態で、衣服を着ろと命令される。エクが衣服を着ようとすると、使用人の一人が軟膏の入った包みを投げてきた。
「お医者様に処方された薬だろ? ちゃんと塗れ」
 エクは腕に当たって落ちた包みを拾い、包みの中にある薄い黄色の軟膏を腕へ塗った。
「そこの薬じゃないだろ」
 使用人達が見せた嘲りは、守衛達が見せたものと同質のものだった。エクが視線をめぐらせると、ほかの性奴隷達が視線をそらす。青い空も緑に輝く樹も久しぶりに見た。それなのに、自分がすることはあの地下でしていたことと変わらない。
 エクは地面へ尻をつき、足を広げた。使用人へ見えるように軟膏をアナルへと塗り込む。屈辱を受けているなんて、考えもしない。エクの頭にあるのは、命令する人間に従えば、そこまでひどいことはされないという刷り込まれた本能だけだ。
 軟膏を塗り終わると、衣服を着ることを許され、二の宮と三の宮の間にある建物へ進んだ。性奴隷は三十人ほどだが、全員が中へ入ってもまだ広く、東側には食事が並んだ台が置かれ、西側には簡易の寝台があった。
 まだ誰からも説明はなかったものの、どこからともなく話が聞こえた。タミーム皇帝が直々に性奴隷を扱っていた宿を摘発したらしい。エクは薄く伸ばされた小麦パンと温かいスープを手に、端のほうへ座った。
 泣きながら食事をする者達を横目に、エクは温かいスープをゆっくりと胃へ流し込む。口を動かしている最中に、守衛が入ってきて、今日はもう休むようにと言い放った。慌てて寝台を取る者もいたが、寝台も毛布も余るほど用意されている。
 エクは毛布だけを持ち、まだ並んでいる食べ物の中から赤い実を一つちぎった。それを口に入れ、噛み砕き、飲み込んでから、誰にも涙を見せずに眠った。

 翌朝、朝食の後、建物の真ん中へ集められた。タミームが奴隷制度を廃止してからの苦労と苦悩を語る。その話の中で、彼は虐げられてきたヴァイスへ対する謝罪をし、性奴隷として貶められたエク達に最大限の援助を申し出た。
 都に留まり、仕事を探すのであれば、働き口を斡旋し、故郷へ帰るのであれば、十分な旅費を用意する。エクも含め、皆、その話を聞いて安堵した。もう性奴隷として生きていかなくてもいいからだ。
 身の振り方を決めるまで、好きなだけ宮殿に留まることができる。だが、エクは早々に故郷へ帰る道を選んだ。タミームの話の後、彼を追いかける。
「タミーム様!」
 皇帝へ追いつく前に、守衛達がエクの足をとめさせた。タミームはすぐに振り返り、守衛達を下がらせる。黒い瞳が優しげに光った。
「どうした?」
 エクはサルマに教わった通り、タミームの視線から逃れるようにうつむき、右ひざをつく。皇帝とは視線を合わせてはいけないと教わった。そして、話をする時は右ひざをつき、頭を垂れ、もう一度許可が下りるまで口を開いてはいけない。
 性奴隷だったエクの作法に、タミームのみならず、守衛達も驚いていたが、頭を垂れているエクがその表情を見ることはなかった。

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