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 翌朝、まとめ役に言われた通り、八時にセドの店の前へ行った。エクのほかに五人いるはずだが、エクは自分以外の誰とも会わなかった。遅れたのかと思い、セドの店から離れ、広場のほうへ向かう。広場から見える時計を見ようと考えたからだ。
「エク」
 まとめ役の声を聞き、エクは人の流れから抜け、店と店の間の細い道へ入った。
「あ、おはようございます」
 まとめ役へ頭を下げると、彼は、「こっちだ」と手を引いてくれる。セドの店の裏を通り、西南西の方角へ向かい始めた。宮殿は北だと、どんな幼い子でも知っている。エクは手を引かれながら、まとめ役の名を呼んだ。
 立ちどまった彼は、エクの顔を凝視する。そんなふうに見られるのは初めてで、エクは不快感を覚えた。
「ヴァイスの中でも」
 ヴァイスという言葉を使うことは、皇帝であるタミームが禁じていた。白い、という意味に加えて、奴隷よりも劣る存在という認識が生まれたからだ。その言葉を聞き、エクはつかまれた手に込められた力を不自然に感じた。
「おまえみたいな奴は、使用人に向かない」
 何を言われるのだろう、と身構えると、言葉ではなく、拳が飛んできた。鳩尾が狙われ、エクはその場へ倒れ込む。肩から提げていた袋には、自由市民化の証書が入っている。取られまいとつかんだが、指先から離れていった羊皮紙の感触と目の前の暗闇しか残らなかった。

 かすんだ視界の先に、炎が見えた。それが蝋燭だと分かり、視線を動かす。
「っう」
 縛り上げられた腕の痛みより、大きく開いた口の中へ入れられた何かが気になった。閉じようとしても、縄のような何かが阻止する。くちびるの端からあふれた唾液が、うつむくと糸を引き、落下した。
「ぅう」
 かろうじて親指が地面へ触れている。そのことが分かると、とたんに体が痛みを訴えた。腕も肩も首も、足の指先までけいれんを起こしそうなほど痛む。薄暗い明かりの中で、エクは情報を求めて、あたりを見回した。
 周囲は土壁のようで、耳を済ませると、誰かのすすり泣く声が聞こえてくる。その泣き声はエクを不安な気持ちにさせた。自分の身に何が起こったのか、よく思い出せない。まとめ役に鳩尾を殴られてからの記憶は一切なかった。
「ぅ、んっ」
 人の気配を感じなかったにもかかわらず、エクは振り向くことのできない背後に立つ人間の存在に気づかされた。大きな手が、背筋をなで、そのまま尻の割れ目をたどる。その感触で、自分が全裸にされていると分かった。
 エクはうなりながら、必死に振り向こうとした。だが、手首に食い込んでいる縄は天井部分を通る堅い梁へかかっており、つま先だけでは体を回転させることはできない。太い指先が嘲笑するかのように、太股の間へ伸びた。
「ぅう、グ、ん」
 サルマはエクに、性奴隷というのは主人の欲求を性的に満たすものだと教えた。夜の営みは愛し合う者同士の間で成り立つが、主人の欲求だけを一方的に満たすだけの存在として扱われるのだと言われた。
 愛し合う両親の元で育ったエクには、愛のない行為を強いられるという言葉だけで十分に恐怖を抱かせる説明だった。今、自分の肌の上を滑る手の存在に、エクはおぞましさを感じ、痛みをこらえ、その手から逃れようとした。
 うしろから抱き締めるように体を近づけられ、その指先がエクの性器へと触れる。エクは口へ入れられた縄を噛み、必死の抵抗をした。生温かい舌が、うなじから頬をなめ上げる。
「っふ、ぅぐ、うっ」
 喉の奥であふれた嗚咽は、涙へ変わり、「やっと手に入った」という男の言葉は、エクに深く大きな絶望をもたらした。

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