ゆらゆら番外編5/i | ナノ


ゆらゆら番外編5/i

 時々、自分はこんな性格だったかと自問することがある。ボーダー柄のパーカに手を伸ばし、不意にその隣にある薄いブルーのパーカを手にした。原色が好きだったのに、近頃は薄い色を選んでいる。その理由を探して、すぐうしろで違う商品を見ている男を見上げた。
 一成は店員に話しかけ、店員は、「かしこまりました」と軽く頭を下げて、その場を去っていく。いつの間に彼好みの色を選ぶようになったんだろう。孝巳は彼が手に取っているカラーシャツと彼を見比べる。
「ボルドーが合うよ」
 目鼻立ちのはっきりしている一成には、赤系の色がいちばん似合う気がする。彼は、「そうか」とかすかに笑みを浮かべた。その後、何度か周囲を見渡し、ネクタイを何本か手にした店員から、そのネクタイを受け取ると、「おまえは?」と尋ねてきた。
 孝巳は首を横に振る。大学を卒業してからの二年、働いていない孝巳は、生活のすべてを一成に任せている。依存しているというほうが正しいものの、彼はそういう言葉を使わない。
 一成が時おり周囲を見渡すようになったのは、三ヶ月ほど前からだ。つられて孝巳も周囲を確認してしまう。
「一成」
 クレジットカードを財布にしまうまで待ち、孝巳は一成の名前を呼んだ。店員から袋を受け取った彼が、軽く背中へ触れる。
「帰るか?」
 外出するのは好きではない。気まぐれに、「働きたい」と言ったら、一成は承諾してくれた。だが、孝巳は聞いてみたかっただけで、本当に外へ出たいかと聞かれたら、頷けない。
 それをずるいという人間はいなかった。一成はどこまでも甘やかしてくれて、孝巳が聞きたくないことは決して聞かせない。

 孝巳は一成の帰りを待つ間、することがなくなると想像する。もし、一成が事故にあったり、あるいはずっと先かもしれないが、先立たれたりしたら、自分はどうなるだろうと考える。
 あんなに優しかった両親や兄からは、連絡がない。きっと自分が一人になっても、もう助けてはくれないだろう。幸喜はまた傷つけにくるかもしれない。音もなく侵入してきた男のことを思い出し、孝巳はソファで寛ぎながら、パソコンを触っている一成へ体をあずけた。
「どうした?」
 あれから、セキュリティーの高いマンションへ移り住んだ。ここは二十四時間、警備員が出入口に立っている。扉も登録した指紋でなければ開かない仕組みだった。
 孝巳は一成の腕へ自分の腕を絡ませ、顔を寄せる。テーブルの上にあったワイングラスへ手を伸ばすと、彼が取ってくれた。
「俺よりほかに好きな人、いる?」
 一人になったら、どうしようと素直に聞けなかった。歪曲した問いかけに、一成は何かを思い出すように目を閉じる。それから、「おまえを裏切ったりしない」とこたえた。的を得ない質問であっても、一成はいつも孝巳が欲しいこたえをくれる。
 赤ワインを一口飲み、孝巳は一成の太股へ手を置き、彼のくちびるへキスをした。熱い手が、シャツの間から肌へ届く。
 今まで怒ったことがないとは言えない。だが、一成に抱かれて得る快感に溺れる時、孝巳は強い独占欲を感じた。その独占欲は深く、激しく、なぜか怒りに似ていると思った。誰かのものではなく、自分のためだけのものであって欲しい、という衝動に、孝巳は驚きを隠せない。
 緩やかに生きる自分にも、そういう面があるのだと知る瞬間、快楽を手にしている時、孝巳は自分が躍動していると感じる。
 抱き寄せていた腕を緩め、アナルからペニスを抜こうとした一成の腕をつかみ、孝巳は彼のくちびるを食んだ。誘うように腰を動かすと、まだ己の中に打ち込まれているものが、うごめくのが分かる。孝巳は貪欲なまでに彼を求めた。



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