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 診療所へ戻ったイハブは、すぐにでも必要な物を持ち、ラウリの元へ行きたいと思ったが、怪しまれないように持ち帰った薬草を保管していく作業を開始した。
「イハブ、遅かったな。昼を食べて来い」
 ハキームからの言葉に返事をして、イハブは女達のいる台所へ回る。末娘のリラが、小さく、「どうぞ」と食事を差し出した。
「ありがとう」
 イハブはそのままそこで食べようとして、リラの視線に手をとめる。悪気はないと分かるものの、人から見られて食べるのは居心地が悪かった。
「リラ」
 名前を呼ぶと、彼女は喜びを隠して、静かに隣へ立つ。
「果物を少し用意してくれないか? すぐには食べないから、包んでくれると嬉しい」
「はい」
 イハブは溜息を漏らし、小麦パンにくるまれた肉と野菜を頬張る。手際よく処理しているため、食事の後は外出できるだろう。いつもなら、ハキームへ相談していた。衰弱したヴァイスを拾ったと言えば、連れて来いと言ってくれるに違いない。
 だが、今回は拾った場所が宮殿のゴミ捨て場だったことから、イハブは何も伝えていない。伝えるにしても、ラウリがもう少し回復した後でいいと判断した。
「お待たせしました」
 リラは果物が入った包みを、熱い茶を飲んでいるイハブへ渡す。
「リラ、ありがとう」
 小屋へ戻り、包みの中を確認した。イハブの好物ばかりが、食べやすい大きさに切られている。イハブは歯ごたえのあるものが好きだ。だが、これではラウリがかわいそうだ、と考えたところで、イハブはリラに衰弱した人間が食べるとは言っていないことを思い出した。
 リラはイハブが食べると思って用意してくれたのだ。洗濯してある清潔な布を袋へつめながら、イハブは苦笑するしかなかった。

 ちょっと出かけます、と言ったイハブを、ハキームはとめなかった。根掘り葉掘り、尋ねることもない。信頼されている証だった。イハブはメルを引き、再び、森を目指した。陽が暮れるまで、あと二、三時間ほどだが、夜道にも慣れているイハブには特に問題ない。
 フラムの草で囲ったダーナのうろは、近づいて見るまで、中に人がいるようには見えない。イハブは眠っているラウリを確認して安堵する。この体で動くのは無理だろうが、もしかしたら逃げているかもしれないと考えていた。
「うっ」
 かすかにうめき、体を震わせたラウリに、イハブはうろへと入り、隣へ片ひざを立てて座った。リラが持たせてくれた果物の包みを開き、口元へ持っていくものの、やはり、ラウリは噛むことも飲み込むこともできない。
 メルの背に乗せていた荷物から、木製の碗を取り出し、果物を手で潰す。果汁を口元へ運んでやると、ラウリはゆっくりと喉を動かした。風が入るたび、ふわふわと揺れる淡い髪は、まるで綿花のようだ。イハブは素直に、きれいだな、と思い、果汁を飲み干した彼の髪へそっと触れる。

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