walou7 | ナノ





walou7

 イハブ以外にも森に自生する薬草や植物を採りに来る人間がいるため、イハブはわざとそういった類のものがない場所を選んだ。湖の近くでメルを座らせ、ラウリを寝かせるための場所を作る。
 ダーナの樹はうろが深く、幹も入り組んでおり、ラウリを休ませるには絶好の場所だった。イハブはそこへメルの背に乗せていた毛皮の敷物を敷き、ラウリの体をその上へ移動させる。
 イハブもメルも湖の水を飲めるが、弱っているラウリには与えないほうがいいと判断し、メルに乗せていた袋から清潔な水を取り出した。固くなめされている袋は、動物の胃で作られる。ダーナのうろへ入り、イハブはラウリの頭を支えた。
 口元へ水を流してやるが、自力で飲み込まず、くちびるの端から垂れていく。
「ラウリ」
 名前を呼んでも、彼は反応しない。イハブは布へ水を含ませ、くちびるへ置いてやる。それから、彼の体の傷を治療するため、一度、うろを出て、湖から離れた。ここで手に入る薬草は限られている。薬草を入れたカゴを脇に抱え、イハブは赤い実に目を留めた。ルコの実はそのまま食べることができ、栄養価も高い。
 湖の水を飲んでいたメルが、イハブの立てる足音に耳を揺らした。イハブはメルの背をなで、うろの中へ入る。森で火を起こせば、怪しまれる。イハブは手にした薬草を口へ入れ、咀嚼しながら、ラウリに与えていた己の服をはぎ取る。
 体中にあるアザに顔をしかめながら、特に腹部は軽く押して、臓器が傷ついていないかを確認していく。痛みを感じている証拠に、ラウリはかすかにうめいた。口の中で発酵してきた薬草を小さな碗へ移す。
 イハブは別の薬草を口へ入れた。胸から順に確かめていくと、肋骨が数本、折れているようだった。背中を見て、肺に骨が刺さっていないかどうか、触診だけで判断しようとしたが、ここでは限界がある。
 ラウリをそっと寝かせ、下肢へ視線を落とした。見つけた時からすでに予想していたが、性的に搾取されたと分かる痕が残っている。イハブは服を裂き、そこへ発酵させた薬草を塗り、鞭で裂傷を負っている臀部へ当ててやる。
 切傷や擦過傷のある部位も同じように手当てした後、小枝を広い、編み目模様に重ねた。それをラウリの胸に当て、メルを引いていた紐で縛りつける。応急処置しかできないが、イハブはすべての傷を診て、大きな溜息をついた。
 カゴの中に残っているのは、ルコの実だけだ。食べ頃かどうか確かめるために、イハブを一つ、口へ入れた。早熟だとしぶく、今のラウリには与えられない。
「ラウリ」
 口の中へ広がった甘みに、イハブはラウリの頭をひざへ乗せ、カゴから赤い実を一つ取り出した。少しは痛みが和らいだのか、うっすらと目を開けた彼の口元へ、実を持っていく。
「やわらかくて、甘い。食べろ」
 ラウリは小さく口を開いた。そこへルコの実を押し込む。口を動かした彼は、「っく」と音を立てる。喉に詰まらせたのかと思い、イハブは顔を横向きにして、吐き出させようとしたが、彼はただ泣いているだけだった。
「もう少し」
 イハブはラウリへ言い聞かせるように独白し、ルコの実を口へ運んでやる。五つめを口へ入れると、彼は噛むのをやめて、吐き出した。今度は水を飲ませる。
「寒くないか?」
 ラウリはかすかに頷き、疲れているのか、目を閉じた。イハブは湖のそばで陽を見上げた。すでに昼頃だ。陽が暮れるまでに、体を覆うものが必要になる。
 イハブはカゴを持ち、再度、薬草採りに出た。目についたフラムの草もナイフで切り取る。フラムの草は動物達の嫌う臭いを発している。もちろん人間にとっても歓迎できる臭いではない。
 ラウリが入っているダーナの樹のうろの周囲へ、フラムの草を置き、紐のないメルの横腹をなでた。
「おいで」
 ゆっくりと歩き出したメルを先に歩かせ、イハブはもう一度だけうろをのぞいた。規則正しく動いているように見える胸を見て、足早にメルのもとへ急いだ。

6 8

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -