わかばのころ29/i | ナノ


わかばのころ29/i

「目、閉じて」
 若葉は胸の高鳴りを抑えて、言われた通り、目を閉じる。ちゅっと音を立てるように軽い口づけをされた。くちびるの上から熱がすぐに離れていく。若葉は目を開くと、潮の手を握った。
「違う」
「え?」
 潮は少し頬を染めていた。
「何が違うんだ?」
 若葉は潮の問いかけに、うつむいた。
「あんなキス、小さい時にふざけてやったのと同じだよ」
 右側に座っている潮のくちびる目がけて、若葉は目を閉じて、自分のほうからキスを仕掛けた。だが、経験があるわけではなく、持っている知識を最大限に使った稚拙なキスに、潮はくすぐったそうに笑った。
「おまえなぁ……」
 潮が口を開けてくれなかったため、若葉の舌は彼のくちびるをなめただけだ。若葉は目を開けた後、もう一度、目を閉じて、彼のくちびるを狙う。彼がそっと口を開けると、温かい口内に舌が入った。驚いて目を開いた瞬間、彼が若葉の後頭部を押さえる。
「っん、っう、ン……」
 潮の舌が絡み、くちびるを吸うように何度も動いていく。若葉は目を閉じて、彼の熱を感じた。強張った体の力が抜けて、指先が彼の服の裾を握る。
「悪い。こんなふうにするつもりじゃなかった」
 くちびるを解放した潮が、若葉の頬をなでた。知らない間に涙があふれていて、彼はそれを拭った。
「うううん、あの、俺……うーちゃん、ありがとう」
 潮の視線が下へ移り、握り締めている服の裾を見た。
「あ、ごめん」
 若葉はすぐに服から手を放す。その手で先ほどまで触れ合っていたくちびるを触ると、潮が手首をつかんだ。何だろう、と思っていると、彼が目を閉じて顔を近づけてくる。目を閉じると、またくちびる同士が触れた。先ほどのように激しくはないが、それでも熱い舌が口内へ入ってくる。若葉はこたえるように舌を動かした。
 明日には帰ってしまうのに、こんなに好きになってどうしようかと思った。このまま時間を止めて欲しい。若葉は潮がくちびるを離した後、彼のほうへ体をあずける。
「うーちゃん、好き、大好き」
 肩口に顔を寄せると、潮の手が背中をなでてくれた。彼からの言葉がないということは、若葉の気持ちにはこたえられないということだ。若葉は泣かないようにくちびるを噛み締めて、彼の腕の中で目を閉じる。
「若葉」
 潮に優しく呼ばれて、そっと下から見上げる。目尻を下げて笑っている彼は、両手の指先で耳たぶをいじっていた。それから、たくさんあるピアスのうちの一つを外した。髪と同じ色のピアスが並ぶ中、それだけはシルバーで少し大きなリングになっている。
「それ、俺のファーストピアス」
 若葉の手にきらきら光るピアスが置かれる。
「お守りのピアスだ。持ってろ」
 思わず耳たぶに手をやると、潮が苦笑する。
「おまえは穴なんか開けるなよ。それ、リングが大きいから、紐かなんかに通せ」
 若葉が頷くと、潮の手が髪をなでる。
「ありがとう」
 月明かりに掲げると、ピアスはきらきらと輝き、若葉は嬉しくて泣きながら笑った。心配されないうちに戻ろうと促され、立ち上がる。下駄でふらつく若葉の手を潮はすぐに握ってくれた。


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