わかばのころ25/i | ナノ


わかばのころ25/i

 潮は雑草が入ったバケツをのぞき込み、縁にかけられている軍手を手にする。
「手伝う」
 若葉の左側から雑草を抜き始めた潮に、若葉は不思議と笑みがこぼれた。
「うーちゃん、今日は早いね」
「あぁ」
 互いに反対方向へ進んでいくため、若葉はバケツを潮にあずけて最後まで進んだ。最後まで進んだ後は放置した雑草をかき集めて彼のほうへ戻る。二時間ほどですべての畑の雑草抜きが終わった。
「はい」
 若葉は軽トラックの助手席から魔法瓶に入った冷たい麦茶を注ぐ。
「ありがとう」
 祖父の分も注ぎ、水路から流れる水で手を洗っている彼に持っていく。
「すまんな」
 空になったカップを持って、軽トラックまで戻ると、あぜ道から潮が緑の穂を眺めていた。
「きれいだなぁ」
 若葉は振られていたが、胸の高鳴りを抑えることはできなかった。潮の横顔を見上げるだけで幸せで、好きだという感情があふれる。ただそれをもう一度言葉にするほど、若葉は愚かではなかった。
「……若葉」
 言葉にする代わりに、思わず潮の服の裾をつかんでいた。
「あ、ごめん」
 軍手をしていたから、手は汚れないものの、服の裾をつかむなと言われていた。慌てて放そうすると潮の大きな手が、裾ごと若葉の手をつかむ。
「この服はいい」
「……うん」
 若葉が放さないと分かると、潮はようやく手を放した。
「来週の木曜に帰るから」
 若葉は暗い気持ちになる。
「冬休みは遊びにくる。それまでに時間作って、土日とか要司さん達んとこ来るからさ……」
「うん、あのね、うーちゃん」
 若葉は緊張しながら、潮を見つめた。どうして好きなのか分からない。だが、そんなことは考えるだけ無駄だ。愚かかもしれないが、若葉は自分であることをやめることはできない。
「俺、まだ……好きでいるのはいい?」
 潮は目を見はり、それからかすかに笑んだ。
「若葉」
 若葉は目に涙を溜めた。潮が自分の名前を呼ぶ。それだけで苦しい。だが、嬉しい。普段は鋭い視線が自分を見る時は優しく、まなじりが下がる。その笑みが大好きだ。若葉はそっと目を擦った。
「俺達まだ知り合って間もない。だから、おまえのことは友達としてしか見れない。けど、いつか……まぁ、いいか」
 少しだけ赤くなった潮が、長い息を吐いた。
「何? 何がいいの?」
「何でもない。ところで、慎也さんに言われたんだけど、おまえ、宿題、終わらせた?」
 嫌なことを思い出し、若葉はむくれた。
「あー、忘れてたのに」
「忘れてたって、おまえ、じゃあ、やらないと」
「うーん」
 問題集の束を思うと、はきはきとこたえられない。乗り気にならない若葉を見て、潮が腕を引いた。


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