わかばのころ17/i | ナノ


わかばのころ17/i

 潮の髪は少し伸びていて、自毛の黒い髪が見え始めていた。彼がここへ来て三週間ほど経つ。
「うーちゃん」
 来た道を戻りながら、若葉は前を歩く潮の背中に声をかける。いつ帰るのかを確認したいのに、若葉は違うことを口にした。
「来週、夏祭りがあるよ。一緒に行く?」
「あぁ」
 ほんの少し断られるかも、と思っていた若葉は嬉しくなる。
「本当?」
「あぁ、別に嘘ついても仕方ないだろ?」
 山道から小石と砂で簡易舗装された道へ出ると、潮が振り返る。滑りやすくなっている山道から道路の間を気にして、若葉が下るのを待ってくれていた。
 若葉自身、よく転ぶため、ここは注意をしている。軽く跳んで潮の隣に立つと、彼がそっと肩に手をそえてくれた。
「今日はうちで食べてく?」
「あ、忘れてた。慎也さんがたまには下で食えって。今日は連れてこいって言われてたんだ」
「じゃ、『むすび』に行く、っわ、あ」
 若葉は前のめりに倒れそうになり、思わず潮の服をつかんだ。だが、すぐに裾をつかんだことに気づき、手を放そうとする。
「危ねぇなぁ」
 放そうとした手をつかんで、潮が抱き合う形で支えてくれた。
「注意力散漫」
 意地悪な声で言われて、顔を上げると、潮は笑っていた。また胸が痛くなる。不思議と涙がにじんだ。
「何だよ、どっか打ったのか?」
 涙を見られてしまい、若葉うつむいて首を横に振った。潮の手が頬を包むように挟み込み、無理やり顔を上げさせられた。彼はいたわるというより、頬を挟んでくちびるが変な形に歪むのを楽しんでいる。
「ぶっさいくな顔」
 放してほしくて腕を握ったが、潮の力に敵わない。
「ぶっ、ふぁな、て、ふぁなって」
「ふぁなってって、意味分かんねぇよ」
 潮が笑いながら頬を挟む手を放した。若葉は腹の肉と同じように左右に引き伸ばす。
「若葉」
 若葉は名前を呼ばれて、ムッとしながら、潮を見上げた。
「今、怒ってるからね」
 若葉はまだひりひりする頬を手でさする。
「ごめん、ごめん。おまえが泣いてるっぽいから、励ましたかったんだ」
「泣いてないもん。俺は今、怒ってるんだから……」
 本当はちっとも怒っていない。潮に触れられた場所が熱い。もっと触って欲しいのに、触れられると秘密を暴かれるような怖さがあった。
「ごめんって。ほら、来いよ」
 転ばないように、と潮が左手を差し出してくれる。若葉は嫌そうな表情を見せたが、内心は手をつなげることを喜んだ。大きな手が若葉の右手を握る。
 すっかり気分をよくした若葉は、知らぬ間に満面の笑みを浮かべていた。その様子を潮が笑って見つめていたが、若葉は足元に気をとられ、彼がほほ笑んでいたことには気づかなかった。


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