わかばのころ12/i | ナノ


わかばのころ12/i

「慎也おじさんも一緒?」
「途中までは」
「歯医者で待ってていい?」
「待たなくていいから、潮君と遊んでおいで。どうしたの? 彼は怖くないだろう?」
 若葉はこちらを見ている潮を見た。金色の髪もじゃらじゃらしたアクセサリーも怖くはない。だが、彼のことが苦手だ。若葉は若葉なりに周囲の雰囲気を読み取る。今ここで、彼が苦手だと言えば、困るのは大好きな会田だ。若葉は首を縦に動かす。それから、「うーちゃんと出かける」と言った。

 相馬地区で遊ぶところといえば、道の駅周辺にある大型ショッピングセンターと家電量販店くらいだ。今日は道の駅までは遠すぎるため、近くのゲームセンターまで来ていた。小規模で、潮は、「本当に何もないな」と溜息をついた。若葉は彼のことを苦手だと認識してから、何を話せばいいのか分からず、彼の背中を追うだけだった。
 書店の中でも、潮の横に並び、大して興味のない雑誌をぱらぱらと見た。彼は隣にいる若葉に、「好きにしろ」と言う。若葉は少しだけ考えて、コミックスコーナーにいると告げた。彼のそばにいるのは気まずいが、大勢の人間がいる場所で一人になるのは嫌だった。
 若葉はコミックスコーナーに移動しても、本棚へ視線を落とさず、雑誌を立ち読みしている潮を見た。彼は立ち読みしていた雑誌とは別の雑誌を手に、レジへと並ぶ。こちらへ来てくれると思ったのに、彼はそのまま書店を出た。
「うーちゃん!」
 若葉は慌てて、その後に続く。
「何だよ! 変なあだ名もやめろ」
 若葉は潮のTシャツの裾をつかもうとする。彼がそれに気づいて、手を払った。
「シャツが伸びるからつかむな」
 くちびるを噛んだ若葉は、悲しい気持ちになりながらも謝る。
「ごめん。俺、置いてかれるって思った……」
「別に置いてったって、おまえは地元の人間なんだから、帰れるだろ? 何で俺がおまえのお守りしなきゃなんねぇの?」
 潮の言う通りだが、若葉は自分の心が傷ついていくのを感じた。
「ほら、そうやってまた泣くだろ? はっきり言って……ウザいんだよ」
 嗚咽を漏らした若葉は、そのまま書店へ戻り、トイレの中へ逃げた。個室で泣きながら、外の世界に出ることの恐怖や痛みを考える。若葉だって、強くなりたいと思っている。このまま高校を卒業して、家の手伝いをするようになれば、同年代の人間と関わる機会が減ってしまう。若い間はいいが、いずれ若葉だけになった時、一人ぼっちになってしまう。
 それを避けるために、同年代の友達を作って遊べと言われていることは分かっている。だが、若葉は付き合い方が極端に下手だった。
 初めて、「ウザい」と言われ、若葉は傷ついていたが、おそらくこれまでにも誰かにそう思われていたに違いないと思う。皆、口にしないだけで、うっとうしいと思っているのだろう。そう考え出すと、若葉はもう家から一歩も出たくないと思った。
 個室の中でひとしきり泣いて、若葉は心を落ち着かせた。自分を愛してくれる人達だけの世界で生きていたい。誰も傷つけない代わりに、誰からも傷つけられたくないと若葉は切実に願った。


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