わかばのころ10/i | ナノ


わかばのころ10/i

 居間で手当てをしてもらい、服を着替えた若葉は、そうめんをすすっている潮の隣に座る。好物のレンコンの天ぷらを二つとり、食べ始めた。
「それじゃ、夏休みだけなのねぇ」
 話の続きらしく母親が潮に話かける。潮は味わうようにゆっくりと食べていた。大人っぽく鷹揚としたその様子に、ふだんなら、「何だ、あの髪は?」と問いそうな祖父も黙ってそうめんをすすっている。
「はい。でも、まだ二週間程度ですけど、ここに来てよかったと思ってます。自然があって、時間に追われなくていい。若葉も仲よくしてくれる」
 若葉はすすっていたそうめんを喉に詰まらせた。せき込むと、潮がすぐに背中へ手を当ててなでてくる。
「大丈夫か?」
 今まで向けられたことのない視線に、若葉は混乱していた。教師達の前でだけ、優等生を気取るクラスメートがいたが、潮はその比ではない。思わず彼を見ると、彼も手を止めて、こちらを見た。
「若葉、大丈夫? お茶?」
 祖母がグラスへ麦茶を入れてくれる。それを何口か飲むとようやく落ち着いた。
「若葉も潮君みたいに落ち着いてゆっくり食べなさい。誰もあんたのレンコンはとらないから」
「はーい……」
 食事を終えた後、祖父が田んぼへ戻る準備を始めたため、若葉も準備を始める。
「おまえは来んでいい。友達と遊べ。ばあさん、財布どこだ?」
 祖父が居間でテーブルの上を片づけている祖母へ話しかけた。畳のある和室部分には仏壇があり、引き出しのところから、祖母が財布を取り出す。
「いらないよ。まだ前にもらったのがあるもん。じいちゃんの手伝いに行く」
「私が行くからいいわよ。潮君、若葉は迷子になりやすいから、よろしくね」
「はい」
 財布を持っておいで、と言われ、若葉はしぶしぶ二階へ上がり、財布を持った。千円札二枚が足される。長靴を履こうとすると、潮の強い視線を感じた。
「若葉、運動靴を履きなさい」
 若葉は久しぶりに運動靴を履いた。潮は悪い人でも、怖い人でもないと分かるが、今から二人で出かけることには少し抵抗があった。
「下まで送る?」
「大丈夫です。食後の運動もかねて歩きます」 
 若葉が頷く前に、潮が言った。
「でも、『むすび』まで徒歩だと三十分はかかるわよ? 市内まで出るなら自転車かバスを使わないと」
「とりあえず、『むすび』までは歩きます。そうめんもかき揚げ天ぷらもおいしかったです。ごちそうさまでした」
 潮はそう言いながら、お辞儀した。母親達が嬉しそうにこちらを見る。同年代の友達が家に来るのはおそらく中学二年以来だった。
 先に出た潮を確認してから、若葉は玄関先まで見送りにくる三人の姿を見つめる。
「仲よくね」
 そう言われては、出かけたくないとは言えない。若葉は小さく、「いってきます」と告げた。ムウがしっぽを振って、潮と遊んでいる。彼は若葉が彼のそばへ近づく前に歩き始めた。歩く速度が違い過ぎて、すぐに距離ができる。


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