わかばのころ5/i | ナノ


わかばのころ5/i

 母親達がウィンドウを下げて会釈した。
「今日も暑いですね。お出かけですか?」
 牧の問いかけに祖母が返す。
「はい、病院ですよ。どこも悪くないけどね、老人は病院と友達ですからねぇ」
 祖母が笑うと、祖父も笑った。
「いつも少なくて恐縮ですけど、それ、夏野菜です。今年はおじいちゃんがオクラも作ったんで、また食べてくださいね」
「わぁ、ありがとうございます! 慎也が大喜びですよ。慎也!」
 いつもの黒いエプロン姿ではない会田が、テラス席のほうからやって来た。彼はトマトを一つ手にして、鼻のほうへ持っていく。
「いい香り。いつもありがとうございます。おいしく頂きますね」
 牧が会田へ、オクラのことを話すと、会田が若葉をのぞき込んだ。
「若葉、お昼はチキンとオクラの照り焼きピザ、なんてどう?」
「わー、食べる! 全部、食べる!」
 若葉の反応に大人達は大笑いした。
「もう、せっかく牧さん達に渡してるのに、あんたが食べたら意味ないわ。牧さん、若葉のこと、こき使ってくださいね」
 早ければ十五時頃には迎えにくると言った母親達を見送り、若葉はふと駐車場の奥に見慣れない車を見つけた。
「あれ、もうお客さん来てるの?」
 まだ十時を回ったばかりだ。若葉が重たいダンボールを抱え直そうとすると、牧が引き取ってくれた。
「あぁ、お客さんじゃなくて、知り合いが遊びに来てるんだ」
 テラス席のガラス扉は冷房が入っているため、閉め切られていたが、鍵まではかかっていない。若葉が開くと、牧が礼を言って先に中へ入る。円形でそろえられたウッドテーブルと椅子はいつも通りの位置で並んでいた。
 牧が言った友達の家族だろうか、両親とその息子が座っていた。若葉は初対面の人間達から自分を隠すように、牧についてキッチンへ入る。会田が父親の隣に座り、息子のほうへ話しかけていた。
「髪の毛、すごい金色だったね。ピアスもいっぱい」
 若葉はキッチンとカウンターをつなぐ導線を振り返って言った。そういえば、牧も左耳に銀色のピアスを一つだけつけている。初めて見た時、おしゃれなおじさんだと思ったが、先ほどの彼のように耳たぶを埋めるほどつけていると、痛そうに見えた。牧が苦笑しながら、「友達のそのまた友達の息子だ。若葉と違ってちょっとひねくれてる」と言った。
「……怖い人?」
「いや、怖くはない。たぶん、若葉より、一つ上だった気がするんだけど、しゃべってみるか?」
 若葉は首を横に振る。
「俺、ここにいる。慎也おじさんとピザ、作る」
 牧は、「分かった」と頷き、頭をなでてくれた。作業台の上に野菜を種類別に並べていると、会田がほほ笑みを浮かべながらやって来る。
「あ、分けてくれたんだね。ありがとう、若葉」
 会田が笑うと、不思議と安堵することができる。夏野菜は定番のトマト、キュウリ、ナス、ニラとオクラだ。彼が小ぶりのトマトをつかんで、そのまま頬張る。
「んー、すごくおいしい。若葉のおじいちゃんも魔法使いだね。若葉は魔法使い見習い、かな?」
 へただけ残して食べ終わった会田が、大型冷蔵庫から生地を取り出す。
「ちょうど昨日の作り置きが……あった、あった。若葉もエプロン、持っておいで」
 若葉は作業台の引き出しを開け、中にあった黒いエプロンを引っ張り出す。大人用のエプロンは大き過ぎるため、会田がわざわざ小さいサイズを用意してくれていた。時々、一緒に料理をする時だけ使うが、いつも同じ場所にアイロンがけされた状態で置いてある。


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