ふくいんのあしおと 番外編9/i | ナノ


ふくいんのあしおと 番外編9/i

 公園は散歩コースやジョギングコースがあり、途中で休めるようにいくつかのベンチが設置されている。朝也は藤棚の下にあるコースからそれたベンチへ和信を座らせた。自販機で飲み物を買い、彼の隣に座る。
「気持ちいいな」
 藤棚の間から射し込んでくる光が、風でゆらゆらと遊ぶ。手の中の缶コーヒーを開けて、飲み始めると、和信も開けた。青白い顔色の彼は、一口だけ飲むと、こちらを見る。朝也は手を伸ばして、その頬をなでた。
「和信、大好きだ」
 たとえ、何を隠していても、何があっても、その思いは揺らがない。朝也はその思いを込めて言った。和信の目尻が濡れていく。
「家に帰る?」
 あふれる涙を拭いながら、泣き始めた和信は小さく頷く。朝也は彼の肩を抱き、来た道を戻った。
 ソファに座らせ、濡れたタオルを渡す。肩を抱くと、和信は自ら体をこちらへあずけてくる。
「ごめん」
「何が?」
 朝也は優しく和信の髪をなでる。
「俺、おまえがいてくれるのに、何も言わないで、甘えてばっかだ」
 七分丈のパンツから出ている足を抱えて、朝也は和信を横抱きにする。足の間に彼のことを下ろし、左の頬へ口づけた。
「和信……」
 音を立てるキスを繰り返すと、頬を染めた和信は濡れたタオルをこちらへ押し当てる。そういう照れ隠しもかわいいと思いながら、朝也はタオルを取り、障害が消えたところでもう一度キスをする。
 本格的な同棲を始めておおよそ一年、朝也は五年の時間を埋めるように和信と過ごしている。一人でワシントンDCへ行ったあの時の選択肢は誤っていないと思う。今、彼を守るだけの力を持っているのは、この五年があったからだ。
「と、朝也」
 和信のうなじに顔を埋めていた朝也は顔を上げる。
「俺……」
 小さく何度も、「俺」を繰り返す和信に、朝也はほほ笑む。
「話さなくていい。話しても話さなくても俺の気持ちは変わらない。俺は何があってもおまえの味方だから」
 朝也の手を和信がぎゅっとつかむ。朝也は空いているほうの手で彼の肌をなでていった。口づけを深めながら、ゆっくりとソファへ押し倒す。ただ抱き合い、触れ合うだけで熱が集中する。朝也が自分で前を寛げると、彼も下だけを脱いだ。寝室から潤滑ジェルの入ったチューブとコンドームを取ってくる。
「っああ、あ、んア、あ……ともっ」
 朝也は和信のアナルをほぐした後、彼の熱へ自身を埋めた。ソファの上で抱き合いながら、互いの快感をむさぼる。仕事場まで片道二時間かかる和信のことを考えて、平日はほとんどセックスをしていない。朝也は暴走する欲望を抑えて、一度射精した後はすぐにペニスを抜き、彼の衣服を元に戻した。
 手を洗い、ソファに横たわっている和信を胸に抱く。五月の風がカーテンを揺らした。彼の髪をなでながら、朝也は笑みを浮かべる。二人で過ごす週末があるからこそ、職場でうまくいかなくても気にならない。もちろん今の状態を維持しようとは思っていないが、少なくとも彼の存在は朝也の大きな支えだ。急激な変化は求めない。自分達はゆっくり進めばいいと思った。
「幸せだなぁ」
 実感している言葉を口にすると、胸の中の小さな頭が動く。朝也はそのつむじに、「愛してる」とささやいた。


番外編8 番外編10(同棲開始1年目くらい/和信視点)

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