ひみつのひ番外編16/i | ナノ


ひみつのひ 番外編16/i

 ウェブカメラ越しに手を振った後、画面が暗くなった。稔はラップトップを閉じて、うしろを振り返る。智章の指先が髪をすいた。
「おじさん達、元気そうだったね」
 両親とは月に一回はウェブカメラ越しに話をしている。アメリカに来てすでに二年が経ったが、里帰りする時はいつも稔の家へ帰った。智章は携帯電話で彼の祖父と話をする以外、里帰りの時すら実家へは帰っていなかった。
 智章は彼の母親を徹底的に避けている。それはおそらく自分のためだ。稔は口づけを受けながら、「智章」と名前を呼んだ。
 藤、と呼ぶことに特別な意味があったことは知っている。だが、こちらへ来て周囲から、「トモアキ」と呼ばれている彼を見ていると、稔は自分も彼の名前をちゃんと呼びたいと思った。
 初めて呼んだ時、智章はとても喜んで、その場でおそらく数十回は「智章」と言わされた。違う大学に通っているため、半日は互いの姿を見ない。そのせいか、夜は部屋の中でべったりとくっついていた。
 一度、離れてから再度キスをしようとした智章の動きが止まる。
「俺、おばさんのこと、嫌いじゃないよ。苦手だけど、もういいんだ」
 アラン編みのセーターを着ている智章は、体を離すと下に着ているクリーム色のシャツごと脱ぎ始める。
「稔、万歳して」
 椅子に座ったままだった稔は言われるまま両手を上げた。
「わ」
 部屋の中は温かいが、いきなり上半身を裸にされて、思わず声が出た。智章が軽々と横抱きにして、そのまま寝室へ連れていかれる。
「智章、待って、何で?」
 両親と話をする前、すでに二回も体をつなげていた。また今からするのだと分かり、稔は足をばたつかせる。
「稔、俺の前であの女の話を出さないで。優しいおまえが許しても、おまえの関心が俺以外に向くことに耐えられない」
 だからといって、またするのか、と目で問えば、凄みのある笑顔で智章が両腕をつかんでくる。
「時々、わざとしてるのかと思うよ」
 噛みつくようなキスが首筋に落ちた。キスマークは消える前にどんどんつけられるため、マフラーが欠かせない。今が冬でよかったと常々思っている。稔は自分の弱点を知りつくしている智章からの攻撃に甘い声を漏らした。
 指先で乳首をこねられるだけで、ワイン色のスキニーパンツの中は一気に窮屈になる。チャックを開けるか、下を脱がせて欲しい。それなのに、智章は意地悪く、尻の間や太股をなでるだけで、直接刺激を与えてくれない。
 脇腹やへその中に指が滑り、智章が舌先で乳首をなぶる。いっそう窮屈になる股間に手を伸ばそうとすると、彼はすぐに手を拘束した。
「と、も、あきっ」
 智章は笑いながら、稔の体へ覆い被さり、耳たぶをなめる。わざとらしく彼の猛りを稔の股間へ押しつけて上下に動いた。稔は涙でかすむ瞳で彼を見上げる。
「どうして欲しい?」
 少し垂れている目尻をさらに下げて、智章が笑う。くちびるを噛み締めて睨むと、彼は耳元へ息を吹きかけた。そして、耳の中へ舌を入れてくる。
「ふ、ひゃ、あ、アっ」
 じんわりと中心部に熱が溜まった。射精できる直接の刺激が欲しい。ねだれば、優しく愛してくれることは知っている。稔は少しだけ体を動かした。その振動が智章にも伝わっていく。
「智章が欲しい。早く……入れて」
 スキニーパンツをはぎ取った智章が興奮して、一回で終わらないのはいつものことだった。二回目の途中で意識を飛ばしていた稔は、キスで目を覚ました。触れるキスではなく、噛みつかれている。
「いたい」
 稔は脇腹や腕にある赤い痕に小さく息を吐いた。
「愛してる」
 智章がそう言って、体を離した。その腕を取り、稔は彼の胸元へ顔を寄せる。彼と同じように左胸の上あたりに歯を立てて、思いきり吸い上げた。
「っん」
 噛む加減が分からず、歯を立て過ぎたかもしれないが、くちびるを離すと赤い痕が白い肌に映えている。
「智章、俺も愛してる」
 稔はもう一度ベッドへ押し倒されたが、今度は激しい動きはなく、智章の腕の中で柔らかいキスだけを受け取った。


番外編15 番外編17(悠紀視点のその後)

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