ひみつのひ番外編14/i | ナノ


ひみつのひ 番外編14/i

 智章は封筒の中へすべてを戻し、大広間を出る。リビングダイニングには暖炉があり、火は入っていなかったが、そこへ封筒を投げ入れた。マントルピースに置いてあるマッチ箱を手に取り、火をつける。稔が書かされた紙が炎に飲み込まれ、灰になった。
 月曜の朝までは寮に戻れないため、智章は携帯電話で稔へ連絡を入れる。数コールの後、愛しい人の声が聞こえた。
「もしもし?」
 智章は稔へ、「全部終わったよ」と告げる。向こうで息を飲む音が聞こえた。
「もう、どうして、藤は何でも独断でするんだよ。俺だって、ちゃんと力になれる」
 稔の言葉に智章はすぐにでも彼を抱き締めたくなる。
「俺、今、家に帰ってるんだ」
「家?」
「うん、藤がそっちに行かなくていいって言ったから、自分んちに帰ってる……こっち、来る?」
 智章はクローゼットの扉を開けながら笑う。
「俺が行ってもいいの?」
「うん……前からお父さんにもお母さんにも、藤のこと、話してたから。来てくれる?」
「もちろん」
 衣服を鞄へ詰め、智章は運転手の携帯電話へ連絡を入れる。すでに十九時を回っていた。稔の家に着くのは二十一時を過ぎるだろう。彼の両親とは初めて会う。初対面の印象は大事だから、本当は日を改めたい。だが、彼に、「来てくれる?」と頼まれて、「行かない」とこたえるわけがない。
 車内でアップにしていた前髪を下ろし、耳へかけるようにしてサイドへ分けた。稔の両親によく思われたいと思っている。自分がそんなことを思うなんて、おかしくて智章は少し笑った。

 予想通り、稔の家に着いたのは二十一時過ぎだった。一戸建ての家は智章の実家や祖父の屋敷と比べると劣るが、玄関の横から裏庭まで続く庭がきれいに手入れされており、心が和む。インターフォンを鳴らすには時間が遅いため、電話をかけると、稔がすぐに扉を開けた。
「藤」
 安堵の笑みを浮かべている稔を見ると、つい彼の体を抱き締めてしまう。胸の中で、彼が慌てて体を引き離そうとした。
「何だ、俺のこと話してくれたんだろう?」
「あ、あの、ただの友達として話してるから、そんなくっつかないで」
 智章はショックを受けた表情を見せる。自分と違い、彼が堂々と自分達の関係を話すとは思えず、当然、それを望んでいるわけではない。彼が嫌なら、智章はもちろんどこまでも彼の望む演技を続ける。
「ご、ごめん、でも、まだ、親には……」
 肩を落とした稔に、智章はそっと触れる。
「分かってる。さ、早く中へ案内して。寒くて凍える」
 稔の家は昔、智章が憧れていた家族像をそのまま絵にしたようだった。仕事ができるが、決して仕事を最優先せず、家庭も大事にする父親と、庭の手入れをし、おいしい夕食を作って家を守る母親。二人とも穏やかで優しい。
 智章のことは親友として話しているらしく、智章は話を合わせた。自己紹介の時に名刺を彼の父親へ渡しても、特に大きな反応は見せない。さすが稔の両親だ、と変なところで感心してしまった。
「今夜は泊まっていくでしょう?」
 母親へ聞かれて、智章は、「恐縮です」と頭を下げる。シャワーを借りた後、稔の部屋へ入った。稔はすでにシャワーを浴びており、ラフな格好でベッドに寝転んでいる。
 ベッドの下には布団が敷いてあった。
「今さらここで寝るなんてありえない」
 智章は布団ではなく、稔が寝転んでいるベッドへ入り込む。寮の部屋でも必ずどちらかのベッドで眠っていた。智章の中では、どんなに小さいベッドでも別々に寝るなんてありえない。彼は苦笑すると、寒かったのか、そばへ寄ってくる。
「今日、頼んでみたんだ、留学のこと」
 稔の両親は、すっかりやつれている稔を見て、進路に悩んでいるのだと心配したらしい。悩みの種は進路ではなく、その大部分が自分の母親だ。智章は稔の頭をなで、髪をすいた。


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