ひみつのひ番外編10/i | ナノ


ひみつのひ 番外編10/i

 智章は稔を連れて、まずはカフェに入った。ソファ席のあるカフェは半個室になっている。稔と出かける時はよく利用するカフェのため、いつもの席に案内された。コートを脱ぐのを手伝い、ハンガーへコートをかける。店員が運んできたメニューを受け取り、智章は隣に座る彼に開いて見せた。
「朝食は食べてきた?」
「うん、食べた」
 稔はメニューへ視線を落したままだが、何も選ぶ気がなさそうだ。
「稔」
 名前を呼ぶと、稔がこちらを見る。
「残してもいいから、少し肉を食べたほうがいい」
 智章はカフェのおすすめになっているベーコンチーズバーガーのセットにすると言った。稔は同じものでいいと言う。
「今日は家じゃなくて、寮へ帰ろう」
「え?」
「実家、好きじゃないだろう? 母もうるさいからね」
 運ばれてきたハンバーガーを食べ始めると、稔が小さな声で、「ありがとう」と言った。何に対してか、分かるようで分からないが、あえて尋ねはしなかった。
 稔は半分ほど食べきり、添えられていたフライドポテトも少し口にした。先に食べ終わっていた智章は、そっと彼の左手を握り締める。彼は左手へ視線を向けて、かすかにほほ笑んだ。
 大して見たかったわけではないが、稔に聞くと、「見たい」と言われたため、昼食の後は映画館へ行った。アクションもので、くだらなかったら眠ってしまうところだが、智章も十分に楽しめる内容だった。寮へ戻る前に一軒だけ店に寄り、稔に似合う淡いオレンジ色のカーディガンを購入した。授業中、時おり、寒そうに背中を丸めているのを思い出したからだった。
 あまり連れ回したつもりはなかったが、寮へ帰り、部屋へ入ると、稔はすぐにベッドへ座った。智章はいったん自分の部屋へ行き、服を着替える。カーディガンの入った袋を持って、稔の部屋へ戻ると、彼はベッドに転がり、寝息を立てていた。
 自然とほほ笑むのが自分でも分かる。智章は稔の眼鏡を外す。パンツを脱がせて、毛布と布団を被せた。あどけない寝顔はずっと見ていたいと思わせる。大して美しいわけではないが、智章には十分美しく、かわいい。
 本当は今夜、これまでの週末の過ごし方についてを問い詰めてみようと思っていたが、稔のことを見ていると、起こすのはかわいそうだ。智章は狭いベッドの縁に体を当てながらも、稔の隣に入り込み、彼のことを抱き締めて眠った。

 実家にいる人間達はたいてい両親に仕えている。彼らから有益な情報を得るのは難しい。智章は自らの手で自分の部屋とリビングダイニング、そして食事をすることが多い広間のほうへも隠しカメラを設置した。新しいカーディガンを羽織り、嬉しそうに笑う稔から、何が事実かを確認する前に、裏づけできるものが必要だと考えた。稔は誰かを傷つけるようなことは言わない。代わりに自分が傷ついてもいいと思うタイプだ。
 土曜の夜、家へ戻ると、稔はすでにベッドで眠っていた。嫌がらせを受けているなら、涙のあとがあってもおかしくないが、これまで泣いていたと感じることも、体への暴行の痕なども見たことがない。智章は念のため、日曜も朝から家を開けた。夜、戻ってきて、朝はここから登校することになるが、初めてのことではない。稔へ仕事だと言えば、彼は殊勝に頷いていた。
 月曜に日付が変わり、夜中の三時を回った頃、智章は三台の監視カメラを回収してから眠った。その日は授業に出るつもりなどなかった。送迎の車の中で眠り、稔だけを教室へ送りだした後、智章はカメラとパソコンを取り出した。


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