ひみつのひ番外編6/i | ナノ


ひみつのひ 番外編6/i

 カレーピラフを注文すると、サラダにミニトマトがついてきた。智章は先に秀崇達と座っている稔の隣へ腰を下ろす。稔はうどんをすすっていた。
「あー、眠い」
 一輝がだるそうに伸びをする。智章は秀崇を見た。すると、秀崇が心外そうにテーブルの下で足を蹴ってくる。
「おまえと一緒にするな。俺達は勉強してたんだ」
「本当かな? 俺達だって、夜は勉強してるよ、ね、稔?」
 湯気がかからないように眼鏡を外していた稔が、智章のほうを見た。智章は彼の頬に手を伸ばし、その滑らかな頬の手触りを確かめる。
「藤、ごはん中だよ」
「うん」
 智章は頷きながら、稔のそばに寄り、彼の腰へ腕を回す。カレーピラフを頬張り、彼がうどんを食べ終わった後、ミニトマトを差し出した。親指と人差し指の間にミニトマトをはさみ、わざと彼のくちびるが指に触れるようにする。
 一年の頃は恥ずかしそうにしていたが、今や公認の仲のため、稔はミニトマトを手から食べる程度なら難なくしてくれる。頬が彼の口の中に入ったミニトマトと同じように赤く染まった。
「おまえ、マジで恥ずかしいな」
 一輝が、「おまえら」と複数形にしないのは、稔に対する気づかいだ。智章は残りのカレーピラフを食べきる。堂々といちゃつけるのは社会に出るまでの間だけだと分かっている。祖父は二年の始め頃には、すでに稔の情報を得ていたらしく、一度だけ忠告されていた。遊びは高校の間だけだ、と言われて、智章は、「本気ですよ」と返していた。それ以降、稔の話題が出ることはない。
 多忙な父には紹介していないが、母親と妹の智美には互いにあいさつさせていた。毎週土曜には三人で食事をしたり、ショッピングに出かけていると聞いている。母親はともかく、妹とは仲よくしているのだと思っていた。報告を受けている限り、二人でショッピングへ出かけたと聞くことが多く、稔自身もそう言うからだ。
 智章は稔の分のトレイも一緒に片づけて、コーヒーを買う。稔にはカフェオレにした。
「ありがとう」
 眼鏡をかけていた稔は、笑みを浮かべてこちらを見上げる。かわいいな、と思うと我慢できず、智章はぎゅっと稔の体を抱き締めた。
「稔、一緒に来てくれよ……」
 智章はすでに進学する大学から課せられているSATを受験していた。四年制大学は願書受付の締切が早い。同じ大学へ通うことが難しいことは理解している。智章が選んだ大学は私立であり、経済的に大きな負担が出る。ただ、向こうの大学は九月始まりだから、稔にもまだ機会はある。二年制大学か、あるいは英語が苦手なら、語学留学から始めたらいい。
 智章は稔の両親に頭を下げてでも、稔と一緒にアメリカへ行きたいと思っている。彼の父親は外資系企業の課長で、母親は専業主婦だった。四年で卒業できるか分からないが、自分がアメリカにいる間は、どんな形であれ、稔にそばにいて欲しい。その間の経済的負担を彼の両親へ負わせることができないなら、智章は自分の口座から払っていいとさえ思った。
 だが、問題は経済的な面ではない。稔はカフェオレを飲みながら、ふるふると首を横に動かす。本人に意思がないなら、どんなふうに説得しても頷いてはくれないだろう。大きな溜息をつくと、秀崇が苦笑する。
「遠距離でも大丈夫だろ? 稔だって会いに行くだろうし、な?」
「うん……」
 頷く稔の表情が暗い。
「おまえ、絶対、会いにくる気なさそうだね」
 少しきつめの口調で言えば、稔はしゅんとした。


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